ベストフレンズ

 夕方の河川敷。

 まだ夏の名残がある風が、 二人の間を通り過ぎていく。

 紗奈は少し瘦せた横顔で、 水面を見つめていた。

 悠真は隣に座り、 しばらく何も言えずにいた。



「つらいとき、 つらいって言えなくて、 余計につらかったね」

 悠真がようやく口を開く。

「気付いてあげられなくて、 ごめん」

 紗奈は視線を落としたまま、 小さく首を振った。

「悠真のせいじゃない」

「ずっと、 『大丈夫』って言い続けてたの、 私だから」



 沈黙。

 川の音だけが、 二人の間を埋めていく。

 紗奈がぽつりと続ける。

「大丈夫って言えば、 誰も心配しなくて済むと思ってた」

「でも、 本当は──」

 言葉が途切れる。

 悠真は急かさず、 ただ待った。



「本当は、 気付いてほしかった」

「『大丈夫』の裏側、 見つけてほしかった」

 紗奈の声が震える。

「でも、 それを望むこと自体が、 わがままな気がして」

「だから、 余計に言えなくなった」


 悠真は膝の上で、 拳を握る。

「わがままじゃないよ」

「弱いって言うことは、 わがままじゃない」

「俺が、 それを知らなかっただけだ」



 紗奈が初めて、 悠真の方を見る。

 目に涙が滲んでいた。

「知らなくて、 いいの」

「知らなくても──」

「隣にいてくれれば、 それでいいの」



 風が止む。

 二人の間に、 静かな時間が流れる。

 悠真はゆっくりと、 紗奈の手に自分の手を重ねる。

 何も言わずに。

 ただ、 そこにいることだけを、 伝えるように。



 しばらくして、 紗奈が小さく笑う。

「……変わらないね、 ここ」

「うん」

「変わらないところも、 いいんだね」

 紗奈の声には、 わずかだけれど、 以前とは違う柔らかさがあった。



 日が沈み始め、 川面がオレンジ色に染まっていく。

 悠真は思う。

 支えるということは、 きっと、 正しい言葉を探すことじゃない。

 分からないまま、 それでも隣に座り続けることなのだと。



 紗奈がふと呟く。

「私、 また少しずつ、 悠真の写真、 見たいな」

「今度は──」

「ちゃんと、 見える気がする」



 悠真は頷く。

 言葉にはしなかったけれど、 その一言が、 何よりの光だった。