ベストフレンズ

 試験を終えた翌朝、悠真はいつもより早く目が覚めた。



 昨日の面接でのやり取りが、まだ耳の奥に残っていた。「大切な人が、一番苦しかった時期に撮った写真です」──あの言葉を、自分はちゃんと言えた。後悔はない。



 でも、紗奈のことが気にかかっていた。「T大、ボーダーぎりぎり」という言葉が、頭から離れなかった。



《昨日はありがとう。ちゃんと聞いてくれて》



《ボーダーぎりぎりって、不安じゃない?》



 送ってから、余計なことを聞いたかもしれないと思った。以前の悠真なら、こういうとき「大丈夫だよ」とすぐに励ましていた。でも今は、まず聞くことを覚えていた。



 紗奈からの返信は、少し時間が空いてから届いた。



《不安。すごく》



《でも今回は、その不安を隠さなくていい気がしてる》



《だから、大丈夫》



 矛盾しているようで、矛盾していない言葉だった。悠真はその一文をしばらく見つめてから、返信を送った。



《不安なままでいいよ。隣にいる》





 紗奈の部屋には、模試の結果と過去問のコピーが積まれていた。二次試験まであと一週間。



 母親がドアの隙間から顔を覗かせる。



「根詰めすぎてない?」



「大丈夫。……今日はちゃんと、大丈夫」



 以前なら反射的に出ていた「大丈夫」が、今は少しだけ違う響きを持っていた。本当にそう思えるときにだけ、その言葉を選べるようになっていた。



 夜、紗奈は悠真にメッセージを送った。



《今日は調子いい。でも明日はわからない。それでいい?》



《いいよ。明日の紗奈は、明日会おう》



 その返信に、紗奈は小さく笑った。完璧な自分でいなくても、隣にいてもらえる。それだけで、机に向かう手にもう一度力が戻ってくる気がした。







 恒一からは「二人とも、無理すんなよ」とだけ短いメッセージが届いていた。指定校推薦で進路が決まった彼は、今は二人の背中を見守る側に回っている。



 玲奈からは、専門学校の出願書類を書き終えた報告があった。



《悠真の写真見て、ここに賭けてみようって思えた》



《結果はまだこれからだけど、後悔はしてない》



 悠真はその言葉に、自分が面接で言った「後悔はない」という一言と重なるものを感じた。それぞれが、それぞれの言葉で、この一年を語り始めている。



 一月の終わり、まだ寒さの厳しい夜だったが、悠真にも紗奈にも、以前とは違う静けさがあった。焦りだけではない、確かな何かを抱えた静けさだった。