一月末、悠真の実技試験の日がやってきた。会場は都内の芸術大学。悠真にとって、人生で一番緊張する朝だった。
電車の中で、スマホに紗奈からのメッセージが届いた。
「今日だね。行ってらっしゃい」
「ありがとう。行ってくる」
「悠真がこの一年撮ってきたもの、ちゃんと出せば大丈夫。信じてる」
その言葉を読んで、悠真は少しだけ肩の力が抜けた。共通テスト前夜、自分が紗奈に伝えた言葉が、そのまま返ってきたような気がした。
試験は静物デッサンと、事前に準備した作品ポートフォリオの提出、それに加えて簡単な面接があった。ポートフォリオには、文化祭で展示した『隣にいる、ということ』のシリーズから、厳選した写真を収めていた。
面接官の一人が、河川敷の写真を見て尋ねた。
「この写真について、説明してもらえますか」
悠真は一瞬、言葉に詰まりそうになったが、深呼吸をして答えた。
「大切な人が、一番苦しかった時期に撮った写真です。何も言えなかった自分が、ただカメラを持って隣にいることしかできなかった。でも今は、それも一つの寄り添い方だったと思っています」
「その経験が、あなたの写真の方向性に影響していますか」
「はい。眩しい瞬間より、誰かがやっと息を吐けた瞬間を撮りたいと思うようになりました」
面接官は静かに頷き、それ以上の質問はしなかった。悠真は自分の言葉が、ちゃんと届いたかどうか分からなかったが、少なくとも嘘のない言葉で話せたという実感はあった。
試験を終えて会場を出ると、冬の夕方の空気が肺に染みた。スマホを見ると、紗奈からメッセージが届いていた。
「終わった? どうだった?」
悠真は電車を待ちながら返信した。
「終わった。手応えはあるようなないような。でも、後悔はない」
「それでいいと思う。お疲れ様」
「紗奈の自己採点、結果どうだった?」
少し間があって、返信が来た。
「まあまあだった。T大、ボーダーぎりぎりだけど、可能性はあるって塾の先生に言われた」
「ぎりぎりでも、可能性あるならいいじゃん」
「うん。二次試験に向けて、また頑張る」
その夜、悠真は家族と簡単な夕食を囲んだ後、自室で今日の面接でのやり取りを思い返していた。自分の言葉で、自分の一年間を語れたことに、静かな達成感があった。
スマホがまた鳴った。今度は玲奈からだった。
「試験どうだった? 恒一から聞いたよ」
「終わった。結果は分からないけど、やれることはやった」
「悠真なら大丈夫だよ。あの展示見た人、みんな悠真の写真に何か感じてたもん」
「ありがとう。玲奈も、進路決まってきてるんだろ?」
「うん。写真の専門学校、いくつか受けてみることにした。悠真に感化された組だから」
悠真はその言葉に笑った。一年前には想像もできなかった関係性が、今こうして自然に存在していることが、不思議で、そして嬉しかった。
窓の外には、二月を目前にした冷たい夜空が広がっていた。それぞれの結果を待つ時間が、静かに流れ始めていた。
電車の中で、スマホに紗奈からのメッセージが届いた。
「今日だね。行ってらっしゃい」
「ありがとう。行ってくる」
「悠真がこの一年撮ってきたもの、ちゃんと出せば大丈夫。信じてる」
その言葉を読んで、悠真は少しだけ肩の力が抜けた。共通テスト前夜、自分が紗奈に伝えた言葉が、そのまま返ってきたような気がした。
試験は静物デッサンと、事前に準備した作品ポートフォリオの提出、それに加えて簡単な面接があった。ポートフォリオには、文化祭で展示した『隣にいる、ということ』のシリーズから、厳選した写真を収めていた。
面接官の一人が、河川敷の写真を見て尋ねた。
「この写真について、説明してもらえますか」
悠真は一瞬、言葉に詰まりそうになったが、深呼吸をして答えた。
「大切な人が、一番苦しかった時期に撮った写真です。何も言えなかった自分が、ただカメラを持って隣にいることしかできなかった。でも今は、それも一つの寄り添い方だったと思っています」
「その経験が、あなたの写真の方向性に影響していますか」
「はい。眩しい瞬間より、誰かがやっと息を吐けた瞬間を撮りたいと思うようになりました」
面接官は静かに頷き、それ以上の質問はしなかった。悠真は自分の言葉が、ちゃんと届いたかどうか分からなかったが、少なくとも嘘のない言葉で話せたという実感はあった。
試験を終えて会場を出ると、冬の夕方の空気が肺に染みた。スマホを見ると、紗奈からメッセージが届いていた。
「終わった? どうだった?」
悠真は電車を待ちながら返信した。
「終わった。手応えはあるようなないような。でも、後悔はない」
「それでいいと思う。お疲れ様」
「紗奈の自己採点、結果どうだった?」
少し間があって、返信が来た。
「まあまあだった。T大、ボーダーぎりぎりだけど、可能性はあるって塾の先生に言われた」
「ぎりぎりでも、可能性あるならいいじゃん」
「うん。二次試験に向けて、また頑張る」
その夜、悠真は家族と簡単な夕食を囲んだ後、自室で今日の面接でのやり取りを思い返していた。自分の言葉で、自分の一年間を語れたことに、静かな達成感があった。
スマホがまた鳴った。今度は玲奈からだった。
「試験どうだった? 恒一から聞いたよ」
「終わった。結果は分からないけど、やれることはやった」
「悠真なら大丈夫だよ。あの展示見た人、みんな悠真の写真に何か感じてたもん」
「ありがとう。玲奈も、進路決まってきてるんだろ?」
「うん。写真の専門学校、いくつか受けてみることにした。悠真に感化された組だから」
悠真はその言葉に笑った。一年前には想像もできなかった関係性が、今こうして自然に存在していることが、不思議で、そして嬉しかった。
窓の外には、二月を目前にした冷たい夜空が広がっていた。それぞれの結果を待つ時間が、静かに流れ始めていた。



