元日、悠真は家族と近所の神社に初詣に出かけた。参拝を終えた後、境内で偶然、紗奈と紗奈の母親に会った。
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとう。今年、勝負の年だね」
紗奈がそう言って笑った。去年の元日とは、明らかに表情が違っていた。悠真はその変化を、言葉にはしなかったが、確かに感じ取っていた。
紗奈の母親が悠真に声をかけた。
「悠真くん、いつもありがとうね。紗奈がこうして笑っていられるの、あなたのおかげだと思ってる」
「いえ……紗奈が自分で頑張ったからです。俺は、ただ隣にいただけで」
「その『ただ隣にいる』が、一番難しいことなのよ」
紗奈の母親の言葉に、悠真は何も言えなくなった。隣で紗奈が、少し照れたような、それでいて誇らしいような顔をしていた。
一月半ば、私立大学の入試が始まった。悠真の第一志望である芸術大学の実技試験は一月末、一般入試との日程が近く、体力的にも精神的にも厳しいスケジュールになっていた。
「両方受けるって、やっぱり決めたんだ」
紗奈が心配そうに聞くと、悠真は頷いた。
「どっちも自分のやりたいことに繋がってる気がして。後悔したくない」
「無理しないでね」
「紗奈こそ」
紗奈の大学入学共通テストは、悠真の実技試験の一週間前に控えていた。二人はお互いの試験日程を確認し合いながら、励まし合う日々を送っていた。
共通テスト前日、紗奈から連絡が来た。
「緊張しすぎて、逆に何も考えられない」
悠真は返信した。
「それでいいんじゃないか。考えすぎるより」
「明日、うまくいくかな」
「うまくいくか分かんないけど、紗奈がこの一年やってきたことは、ちゃんと紗奈の中に残ってる。それは、明日の結果とは関係ないと思う」
しばらく既読がつかなかった後、返信が来た。
「その言葉、覚えておく。ありがとう」
共通テスト当日、悠真は試験会場には行けなかったが、朝早くにメッセージを送った。
「行ってらっしゃい。終わったら連絡して」
試験が終わった夜、紗奈から電話がかかってきた。声は疲れていたが、悲観的な調子ではなかった。
「思ったより、落ち着いて解けた」
「良かった」
「悠真の言葉、思い出しながらやった。結果じゃなくて、ここまでやってきたことを信じようって」
「点数、どうだった?」
「自己採点、まだしてない。今日は、もう何も考えたくない」
「うん、それでいい。今日はゆっくり休んで」
電話を切った後、悠真は自分の実技試験対策に戻った。窓の外は真冬の夜で、息が白くなるほど冷え込んでいた。
机の上には、文化祭で展示した写真のデータが入ったハードディスクが置かれていた。悠真はふと、それを開いて、河川敷の写真を見つめた。
一年前、この写真を撮った時、紗奈がこんなふうに自分の言葉で試験を語れるようになるとは、想像もしていなかった。
悠真はデッサンの続きに取りかかった。それぞれの受験が、それぞれのペースで、山場を迎えようとしていた。
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとう。今年、勝負の年だね」
紗奈がそう言って笑った。去年の元日とは、明らかに表情が違っていた。悠真はその変化を、言葉にはしなかったが、確かに感じ取っていた。
紗奈の母親が悠真に声をかけた。
「悠真くん、いつもありがとうね。紗奈がこうして笑っていられるの、あなたのおかげだと思ってる」
「いえ……紗奈が自分で頑張ったからです。俺は、ただ隣にいただけで」
「その『ただ隣にいる』が、一番難しいことなのよ」
紗奈の母親の言葉に、悠真は何も言えなくなった。隣で紗奈が、少し照れたような、それでいて誇らしいような顔をしていた。
一月半ば、私立大学の入試が始まった。悠真の第一志望である芸術大学の実技試験は一月末、一般入試との日程が近く、体力的にも精神的にも厳しいスケジュールになっていた。
「両方受けるって、やっぱり決めたんだ」
紗奈が心配そうに聞くと、悠真は頷いた。
「どっちも自分のやりたいことに繋がってる気がして。後悔したくない」
「無理しないでね」
「紗奈こそ」
紗奈の大学入学共通テストは、悠真の実技試験の一週間前に控えていた。二人はお互いの試験日程を確認し合いながら、励まし合う日々を送っていた。
共通テスト前日、紗奈から連絡が来た。
「緊張しすぎて、逆に何も考えられない」
悠真は返信した。
「それでいいんじゃないか。考えすぎるより」
「明日、うまくいくかな」
「うまくいくか分かんないけど、紗奈がこの一年やってきたことは、ちゃんと紗奈の中に残ってる。それは、明日の結果とは関係ないと思う」
しばらく既読がつかなかった後、返信が来た。
「その言葉、覚えておく。ありがとう」
共通テスト当日、悠真は試験会場には行けなかったが、朝早くにメッセージを送った。
「行ってらっしゃい。終わったら連絡して」
試験が終わった夜、紗奈から電話がかかってきた。声は疲れていたが、悲観的な調子ではなかった。
「思ったより、落ち着いて解けた」
「良かった」
「悠真の言葉、思い出しながらやった。結果じゃなくて、ここまでやってきたことを信じようって」
「点数、どうだった?」
「自己採点、まだしてない。今日は、もう何も考えたくない」
「うん、それでいい。今日はゆっくり休んで」
電話を切った後、悠真は自分の実技試験対策に戻った。窓の外は真冬の夜で、息が白くなるほど冷え込んでいた。
机の上には、文化祭で展示した写真のデータが入ったハードディスクが置かれていた。悠真はふと、それを開いて、河川敷の写真を見つめた。
一年前、この写真を撮った時、紗奈がこんなふうに自分の言葉で試験を語れるようになるとは、想像もしていなかった。
悠真はデッサンの続きに取りかかった。それぞれの受験が、それぞれのペースで、山場を迎えようとしていた。



