ベストフレンズ

 十二月最初の月曜日、恒一の指定校推薦の結果が出る日だった。朝のホームルーム前、恒一はいつになく落ち着かない様子で教室に入ってきた。

「顔、死んでるぞ」

 悠真が声をかけると、恒一は力なく笑った。

「昨日、一睡もできなかった」

「大丈夫だって。恒一、面接練習あれだけやったんだから」

「分かってるけど、こういうのは結果出るまで分かんないだろ」



 結果は放課後、担任から個別に伝えられることになっていた。悠真と紗奈は、恒一が職員室から戻ってくるのを教室で待っていた。

「遅いね」

「まだ五分だろ」

「そうだけど……」

 紗奈が落ち着かない様子で時計を見ていた。悠真はその姿に、去年の紗奈だったら、こういう時にもっと平静を装おうとしていただろうと思った。今は、素直に不安そうな顔をしている。それも一つの変化だった。

 教室のドアが開いて、恒一が入ってきた。表情からは、結果が読み取れなかった。

「……どうだった?」

 紗奈が思わず聞くと、恒一は数秒黙ってから、ゆっくりと笑顔になった。

「受かった」

「マジで!?」

 悠真が思わず声を上げると、恒一は照れくさそうに頭をかいた。

「面接で、悠真と練習した『地元にいたい』って理由、そのまま言った。先生に、その理由が一番印象に残ったって言われた」

「良かったな、本当に」

 紗奈も心から嬉しそうに笑っていた。三人の中で一番早く進路が決まった恒一を、二人は自分のことのように喜んだ。



 その夜、三人と玲奈で急遽集まって、恒一の合格を祝うことになった。近所のファミレスに集まり、恒一を中心に賑やかな時間を過ごした。

「これで一人、先にゴールしたわけだ」

 玲奈がそう言うと、恒一は少し照れながら答えた。

「ゴールって言うか……なんか、これからも近くにいられる場所を選んだだけだよ」

「それも立派な理由だよ」

 紗奈がそう言うと、恒一は真剣な顔で三人を見た。

「俺、お前らのこと見てて、ずっと思ってたんだ。分かり合えなくても、隣にいようとするのって、すごいことだなって。俺も、そういうふうに誰かの近くにいられる人間になりたいと思った」

 悠真はその言葉に、胸が熱くなった。自分たちの一年間が、恒一の中にも確かに何かを残していたのだと実感した。



 帰り道、悠真と紗奈は二人で並んで歩いた。恒一の合格を祝う気持ちと同時に、自分たちの受験がいよいよ本格化することへの緊張感も、二人の中に静かに存在していた。

「恒一、決まって良かったね」

「うん。次は俺らの番だな」

「……緊張する」

「するよな。俺も」

「でも、去年の今頃より、ずっと落ち着いてる自分がいる」

 紗奈がそう言うと、悠真は頷いた。

「俺も。何が変わったんだろうな」

「多分、一人じゃないって、ちゃんと分かってるからだと思う」

 紗奈の言葉に、悠真は静かに同意した。冬の夜道を、二人の足音だけが規則正しく響いていた。受験という新しい山を前にして、二人はもう、一人で抱え込むことを選ばなくなっていた。