文化祭が終わると、学校全体の空気が一気に変わった。廊下に貼られていた展示のポスターも撤去され、教室には受験へ向けたカウントダウンカレンダーが貼られるようになった。
紗奈はT大の過去問演習に本格的に取り組み始めていた。悠真は自分の志望する美大・芸大系の入試について調べ始め、実技試験対策として写真の作品集作りに取りかかっていた。
「悠真の作品集、文化祭の展示がそのまま使えそう」
紗奈がそう言うと、悠真は苦笑した。
「そう単純でもないけどな。でも、あの一年間があったから、今回の作品集の方向性は決まった気がする」
十一月の半ば、悠真は担任と改めて進路面談をした。志望校は都内の芸術大学に絞られつつあった。実技試験の日程と、一般入試の日程が重なる可能性があり、悠真はどちらを優先するか悩んでいた。
「両方受けるのは体力的にきついかもしれないな」
担任の言葉に、悠真は頷きながらも、まだ決めきれずにいた。
紗奈の方は、モギ試験の結果が安定してきていた。去年の今頃と比べると、明らかに集中力が違っていた。だが、模試の結果が良い日と悪い日で、感情の波が完全になくなったわけではなかった。
「今日の模試、悪かった」
ある日、紗奈がそう言って肩を落とした。悠真はすぐに励まそうとする代わりに、まず聞いた。
「悪かったって、どのくらい?」
「英語、過去最低点だった」
「それは、へこむな」
悠真がただそう相槌を打つと、紗奈は少し驚いた顔をした。
「慰めてくれないの?」
「慰めても、点数変わらないだろ。でも、今日はしんどい日、ってことは分かった」
「……うん。しんどい日」
紗奈はそう繰り返しながら、少しだけ肩の力を抜いた。以前の悠真なら、「大丈夫、次頑張ろう」とすぐに励ましていただろう。でも今は、まず紗奈の状態をそのまま受け止めることを覚えていた。
恒一は地元の国公立大学を第一志望に決め、面接練習にも真剣に取り組むようになっていた。
「この間の悠真との練習、役に立った。本番でも、自分の言葉で話せた気がする」
恒一の指定校推薦の結果は、十二月頭に出るという。三人の中で一番早く進路が決まるかもしれない状況に、恒一自身が一番落ち着かない様子だった。
玲奈は、写真の道を本格的に考え始めていた。文化祭での展示を通して、自分の撮る写真が誰かに何かを伝えられることを実感したのだという。
「私も、写真関係の学校、調べてみようと思う」
「玲奈が?」
「意外?」
「いや……なんか、嬉しい」
悠真の素直な反応に、玲奈は少し笑った。
「悠真がきっかけの一つだよ。あなたの写真見てたら、自分も何か撮りたくなった」
十二月に入り、朝晩の冷え込みが厳しくなった。受験本番までの時間が、目に見える形で迫ってきていた。
ある夜、紗奈から電話がかかってきた。声の調子で、悠真はすぐに紗奈の状態を察した。
「眠れない?」
「うん……不安で」
「話す? それとも、ただ電話繋いでおくだけでいい?」
「……繋いでおくだけでいい」
二人は特に何も話さず、ただ電話を繋いだまま、それぞれの時間を過ごした。悠真は参考書を開き、紗奈も机に向かう気配がした。時々、ページをめくる音だけが聞こえた。
一時間ほどして、紗奈がぽつりと言った。
「ありがとう。ちょっと落ち着いた」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
電話を切った後、悠真は窓の外を見た。冬の夜空は澄んでいて、星がいくつか見えた。それぞれの受験が、それぞれのやり方で、静かに近づいていた。
紗奈はT大の過去問演習に本格的に取り組み始めていた。悠真は自分の志望する美大・芸大系の入試について調べ始め、実技試験対策として写真の作品集作りに取りかかっていた。
「悠真の作品集、文化祭の展示がそのまま使えそう」
紗奈がそう言うと、悠真は苦笑した。
「そう単純でもないけどな。でも、あの一年間があったから、今回の作品集の方向性は決まった気がする」
十一月の半ば、悠真は担任と改めて進路面談をした。志望校は都内の芸術大学に絞られつつあった。実技試験の日程と、一般入試の日程が重なる可能性があり、悠真はどちらを優先するか悩んでいた。
「両方受けるのは体力的にきついかもしれないな」
担任の言葉に、悠真は頷きながらも、まだ決めきれずにいた。
紗奈の方は、モギ試験の結果が安定してきていた。去年の今頃と比べると、明らかに集中力が違っていた。だが、模試の結果が良い日と悪い日で、感情の波が完全になくなったわけではなかった。
「今日の模試、悪かった」
ある日、紗奈がそう言って肩を落とした。悠真はすぐに励まそうとする代わりに、まず聞いた。
「悪かったって、どのくらい?」
「英語、過去最低点だった」
「それは、へこむな」
悠真がただそう相槌を打つと、紗奈は少し驚いた顔をした。
「慰めてくれないの?」
「慰めても、点数変わらないだろ。でも、今日はしんどい日、ってことは分かった」
「……うん。しんどい日」
紗奈はそう繰り返しながら、少しだけ肩の力を抜いた。以前の悠真なら、「大丈夫、次頑張ろう」とすぐに励ましていただろう。でも今は、まず紗奈の状態をそのまま受け止めることを覚えていた。
恒一は地元の国公立大学を第一志望に決め、面接練習にも真剣に取り組むようになっていた。
「この間の悠真との練習、役に立った。本番でも、自分の言葉で話せた気がする」
恒一の指定校推薦の結果は、十二月頭に出るという。三人の中で一番早く進路が決まるかもしれない状況に、恒一自身が一番落ち着かない様子だった。
玲奈は、写真の道を本格的に考え始めていた。文化祭での展示を通して、自分の撮る写真が誰かに何かを伝えられることを実感したのだという。
「私も、写真関係の学校、調べてみようと思う」
「玲奈が?」
「意外?」
「いや……なんか、嬉しい」
悠真の素直な反応に、玲奈は少し笑った。
「悠真がきっかけの一つだよ。あなたの写真見てたら、自分も何か撮りたくなった」
十二月に入り、朝晩の冷え込みが厳しくなった。受験本番までの時間が、目に見える形で迫ってきていた。
ある夜、紗奈から電話がかかってきた。声の調子で、悠真はすぐに紗奈の状態を察した。
「眠れない?」
「うん……不安で」
「話す? それとも、ただ電話繋いでおくだけでいい?」
「……繋いでおくだけでいい」
二人は特に何も話さず、ただ電話を繋いだまま、それぞれの時間を過ごした。悠真は参考書を開き、紗奈も机に向かう気配がした。時々、ページをめくる音だけが聞こえた。
一時間ほどして、紗奈がぽつりと言った。
「ありがとう。ちょっと落ち着いた」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
電話を切った後、悠真は窓の外を見た。冬の夜空は澄んでいて、星がいくつか見えた。それぞれの受験が、それぞれのやり方で、静かに近づいていた。



