文化祭当日、朝から校舎全体が浮き足立った空気に包まれていた。写真部の展示室には、開場と同時に人が入り始めた。
悠真は受付を兼ねて教室の入り口に立っていたが、思った以上に緊張していた。自分の写真を見た人がどんな顔をするか、想像するだけで落ち着かなかった。
「大丈夫、悪い顔してる人なんていないから」
隣に立った玲奈が笑って言った。
「見てれば分かるよ」
午前中、クラスメイトや後輩たちが次々と訪れた。悠真のコーナーの前で足を止める人は多く、中にはタイトルパネルの文章を写真に撮っていく生徒もいた。
「これ、朝比奈が撮ったの? なんか、じわじわくるな」
同じクラスの男子生徒がそう言って、河川敷の写真をしばらく見つめていた。
「特別なことしてないのに、写真だと特別に見える」
その言葉に、悠真は自分がずっと探していた答えの一つを、他人の口から聞いたような気がした。
昼過ぎ、恒一が展示室に顔を出した。面接練習の成果か、以前より落ち着いた様子だった。
「さっき、後輩の女子二人が悠真の写真見て泣いてたぞ」
「泣いてた?」
「理由は聞かなかったけど。多分、自分の誰かを思い出したんじゃないか」
悠真はその話を聞いて、自分の写真が紗奈との一年を撮ったものでありながら、見る人それぞれの記憶と重なっていくことに、不思議な感覚を覚えた。テーマは『隣にいる、ということ』。それは自分たちだけの話ではなく、誰にでもある感情なのだと、改めて実感した。
紗奈は午後、少し時間を作って展示室に来た。今日は受験生らしく、休憩の合間を縫っての来訪だった。
「調子どう?」
「思ったより、みんな真剣に見てくれてる」
「良かったね」
紗奈は展示室の隅で、悠真の様子を少し離れたところから眺めていた。来場者と話す悠真の姿は、以前よりずっと自然に見えた。誰かに気を遣いすぎることも、無理に明るく振る舞うこともなく、ただ自分の作品について話している。
「悠真、楽しそう」
紗奈がぽつりと言うと、玲奈がそれを聞きつけて答えた。
「悠真、こういう場所だと素の顔になるんだよね。写真の話してる時が一番、飾ってない気がする」
「うん、分かる」
紗奈は頷きながら、去年の自分だったら、こうして少し離れた場所から悠真を見ることに、焦りや不安を感じていたかもしれないと思った。でも今は、ただ純粋に、悠真が楽しそうにしていることを嬉しく思えた。
夕方、一日目の閉場時間が近づく頃、展示室の来場者数は予想を大きく上回っていた。写真部顧問の教師が満足げに言った。
「今年は過去一番の反響だな。特に朝比奈のコーナー、感想ノートがもうすぐ一冊終わりそうだ」
感想ノートには、知らない生徒たちからの言葉がびっしりと書き込まれていた。「誰かと一緒にいる時間の意味を考えた」「自分の大切な人を思い出した」「言葉にならない気持ちが写真になってた」。
悠真はノートを一枚ずつめくりながら、自分が一年間かけて撮り続けてきたものが、確かに誰かに届いたことを実感した。
片付けを終えて教室を出ると、外はもう夕暮れだった。紗奈が校門のところで待っていた。
「明日も二日目、頑張って」
「ありがとう。紗奈も勉強、頑張って」
「うん」
二人は並んで歩き出した。文化祭の喧騒が遠くに聞こえる中、いつもと同じ帰り道が、今日は少しだけ特別に感じられた。
悠真は受付を兼ねて教室の入り口に立っていたが、思った以上に緊張していた。自分の写真を見た人がどんな顔をするか、想像するだけで落ち着かなかった。
「大丈夫、悪い顔してる人なんていないから」
隣に立った玲奈が笑って言った。
「見てれば分かるよ」
午前中、クラスメイトや後輩たちが次々と訪れた。悠真のコーナーの前で足を止める人は多く、中にはタイトルパネルの文章を写真に撮っていく生徒もいた。
「これ、朝比奈が撮ったの? なんか、じわじわくるな」
同じクラスの男子生徒がそう言って、河川敷の写真をしばらく見つめていた。
「特別なことしてないのに、写真だと特別に見える」
その言葉に、悠真は自分がずっと探していた答えの一つを、他人の口から聞いたような気がした。
昼過ぎ、恒一が展示室に顔を出した。面接練習の成果か、以前より落ち着いた様子だった。
「さっき、後輩の女子二人が悠真の写真見て泣いてたぞ」
「泣いてた?」
「理由は聞かなかったけど。多分、自分の誰かを思い出したんじゃないか」
悠真はその話を聞いて、自分の写真が紗奈との一年を撮ったものでありながら、見る人それぞれの記憶と重なっていくことに、不思議な感覚を覚えた。テーマは『隣にいる、ということ』。それは自分たちだけの話ではなく、誰にでもある感情なのだと、改めて実感した。
紗奈は午後、少し時間を作って展示室に来た。今日は受験生らしく、休憩の合間を縫っての来訪だった。
「調子どう?」
「思ったより、みんな真剣に見てくれてる」
「良かったね」
紗奈は展示室の隅で、悠真の様子を少し離れたところから眺めていた。来場者と話す悠真の姿は、以前よりずっと自然に見えた。誰かに気を遣いすぎることも、無理に明るく振る舞うこともなく、ただ自分の作品について話している。
「悠真、楽しそう」
紗奈がぽつりと言うと、玲奈がそれを聞きつけて答えた。
「悠真、こういう場所だと素の顔になるんだよね。写真の話してる時が一番、飾ってない気がする」
「うん、分かる」
紗奈は頷きながら、去年の自分だったら、こうして少し離れた場所から悠真を見ることに、焦りや不安を感じていたかもしれないと思った。でも今は、ただ純粋に、悠真が楽しそうにしていることを嬉しく思えた。
夕方、一日目の閉場時間が近づく頃、展示室の来場者数は予想を大きく上回っていた。写真部顧問の教師が満足げに言った。
「今年は過去一番の反響だな。特に朝比奈のコーナー、感想ノートがもうすぐ一冊終わりそうだ」
感想ノートには、知らない生徒たちからの言葉がびっしりと書き込まれていた。「誰かと一緒にいる時間の意味を考えた」「自分の大切な人を思い出した」「言葉にならない気持ちが写真になってた」。
悠真はノートを一枚ずつめくりながら、自分が一年間かけて撮り続けてきたものが、確かに誰かに届いたことを実感した。
片付けを終えて教室を出ると、外はもう夕暮れだった。紗奈が校門のところで待っていた。
「明日も二日目、頑張って」
「ありがとう。紗奈も勉強、頑張って」
「うん」
二人は並んで歩き出した。文化祭の喧騒が遠くに聞こえる中、いつもと同じ帰り道が、今日は少しだけ特別に感じられた。



