ベストフレンズ

 文化祭まで残り二週間。写真部の部室は、準備の熱気で賑わっていた。

 悠真は『隣にいる、ということ』というテーマのもと、展示する写真を選び始めていた。机に並べた数十枚から、十枚ほどに絞る作業は思った以上に難しかった。

「これも外すの?いい写真だと思うけど」

 玲奈が手にしたのは、去年の文化祭の前夜祭で撮った、紗奈と恒一が笑っている一枚だった。

「いい写真なんだけど……テーマから少しずれる気がして」

「悠真の中で、もう基準ができてるんだね」

 玲奈は納得したように頷くと、別の写真を手に取った。それは、図書館の窓際で紗奈が頬杖をつきながら、ふと顔を上げた瞬間を撮った一枚だった。誰かと話しているわけでもなく、ただ一人で考え事をしている、何の特別さもない瞬間。

「これは?」

「……それは入れる」

「分かる気がする。特別なことが起きてる瞬間じゃなくて、ただ、そこにいていい、って感じがする写真だもんね」

 悠真は頷きながら、自分が一年間追い続けてきたものの正体に、少しずつ言葉がついてきている気がした。



 放課後、紗奈が部室に顔を出した。展示の準備を覗きに来たのだという。

「私の写真、こんなにあるの?」

「紗奈基準で選んだわけじゃないけど、結果的に多くなった」

「なんか、気恥ずかしいね。こうして並んでると」

 紗奈は写真を一枚ずつ眺めながら、時々足を止めた。河川敷の写真の前で、紗奈は少し長く立ち止まった。

「これ、覚えてる。何も言われなかった日」

「覚えてるよ」

「あの時、悠真が何も言わなかったこと、実はすごく助かってた。言葉、探さなくていいんだって思えたから」

 悠真はその言葉を、写真の横に置くキャプションの代わりのように、心の中にしまった。



 文化祭実行委員からは、展示スペースの最終確認の連絡が来ていた。教室一室を使った、写真部としては過去最大規模の展示になる予定だった。

「責任重大だな」

 恒一が冗談めかして言うと、玲奈が真剣な顔で返した。

「悠真の写真、ちゃんとたくさんの人に見てほしい。一年間、ずっとそばで見てきたから分かる。これは、悠真にしか撮れないものだから」

 玲奈の言葉には、以前のような切なさはもうなかった。今はただ、まっすぐな応援の気持ちだけがあった。



 その夜、悠真は展示のタイトルパネルの文章を考えていた。何度も書き直したノートの最後に、こう記した。

「眩しい瞬間より、誰かが息を吐ける瞬間を。隣にいる、ということ──それは、分かり合うことではなく、分からないまま、それでもそこにいようとすることだと思う」

 書き終えた文章を、悠真は紗奈に送った。少し経って、返信が来た。

「これ、私たちの一年そのものだね」

 悠真は窓の外を見た。文化祭が近づくにつれ、季節は少しずつ深まっていく。十年来の関係が、新しい言葉を見つけながら、また少しだけ形を変えていく。そんな十月だった。