ベストフレンズ

 八月中旬。夏休みも後半に入り、三年生にとって避けられない話題──進路──が、少しずつ日常に入り込んでくる。

悠真は担任との面談で、志望校をまだ決めかねていることを指摘された。「将来やりたいこと、何かあるか」と聞かれ、悠真はとっさに答えられなかった。写真部での活動が楽しいということだけは分かっていたが、それを進路に結びつける具体的な像は、まだ持てていなかった。



 放課後、紗奈と駅前のカフェで勉強しながら、悠真はその話をした。

「T大、本当に行くのか?」

「うん。決めてる」

紗奈はあっさりと答えた。以前、悠真が「悠真がいなくなったとき、私がどうなるか分からない」と紗奈から言われた夜を、悠真はまだ覚えていた。

「不安じゃないのか? 一人暮らしとか、知らない場所で」

「不安だよ。でも、行きたい気持ちの方が今は強い。それに……」

紗奈は少し言葉を選んでから続けた。

「前の私だったら、不安に押されて諦めてたと思う。今は、不安があっても、それとは別に決められる気がする」

悠真はその言葉に、紗奈の変化をはっきりと感じた。



 恒一は相変わらず進路に迷っていた。「お前らみたいに何か一つに決まってるわけじゃないから、逆に焦る」とこぼす。

「決まってなくてもいいんじゃないか」と悠真が言うと、恒一は驚いた顔をした。

「お前がそれ言うの、なんか新鮮だな」

「紗奈に教えられた。決まってないことを、決まってないまま持っておいてもいいって」

「お前ら、本当に変わったよな」

恒一は笑いながらも、少し肩の力が抜けたような顔をしていた。



 部室では、玲奈が悠真に写真部の進路、つまり美術系や映像系の大学について資料を見せていた。

「悠真、本気で考えるなら、こういう道もある」

悠真はその資料を眺めながら、初めて「やりたいこと」という言葉が、自分の中で輪郭を持ち始めているのを感じた。

「考えてみる」

「焦らなくていい。悠真はまだ、自分の写真を探してる途中だと思うから」


 夜、紗奈に進路の話を伝えると、紗奈は意外な顔をした。

「悠真が写真の道、考えてるの初めて聞いた」

「まだ決めてない。でも、考えてもいいかなって思った」

「いいと思う。悠真の写真、好きだよ」

「お前が言うと特別な意味に聞こえるな」

「そういう意味だよ」

電話越しの紗奈の声は、いつもより少し明るかった。それぞれが自分の道を探しながらも、隣にいることだけは変わらない。そのことが、二人にとって何よりの安心になっていた。