ベストフレンズ

 八月一日。花火大会の日。

朝から紗奈は珍しく早起きしていた。悠真が迎えに行くと、紗奈は浴衣ではなく、動きやすい服を選んでいた。

「浴衣はやめた。もし途中で帰りたくなった時、動きやすい方がいいかなって」

「いいと思う」

無理に特別な日を演出しようとせず、その日の自分に合わせた選択をする紗奈の姿に、悠真は小さな成長を感じた。



 会場には恒一と玲奈も合流した。四人で屋台を回り、たこ焼きやかき氷を分けながら、場所を確保した河川敷のシートに座る。

「去年は来れなかったもんな」と恒一がさらりと言う。

「うん。今年は来れた」

紗奈はそう答えて、特に気負った様子もなく笑った。去年のことを隠さずに話せる空気が、いつの間にか自然になっていた。



 花火が始まる直前、紗奈がふと悠真の方を見た。

「悠真、今、緊張してる?」

「ちょっとしてる。お前は?」

「私も。でも、悪い緊張じゃない気がする」

「分かる」

短いやりとりだったが、二人の間には言葉にしなくても伝わるものがあった。



 花火が上がり始める。大きな音と光が河川敷を包む。紗奈は時々目を閉じて、音だけを聞いている瞬間があった。

「大丈夫?」と悠真が小声で聞く。

「うん、平気。たまに音が大きすぎてびっくりするだけ」

無理に「大丈夫」と言わせるのではなく、本当の感覚をそのまま聞けるようになっていた悠真にとって、紗奈の返事はいつもより軽く感じられた。

玲奈は少し離れた位置から、四人の様子をカメラに収めていた。「シャッター切るタイミング、今が一番いい」と呟きながら、悠真と紗奈が並んで花火を見上げる後ろ姿を一枚、残した。



 花火が終わった後、紗奈は珍しく最後まで会場に残った。

「今年、最後までいられた」

「無理してないか?」

「してない。今は、本当に大丈夫」

紗奈の声には、以前のような取り繕いがなかった。悠真はその言葉を、そのまま信じることができた。



 帰り道、二人だけになったところで紗奈が言った。

「去年の私と、今年の私、ちょっと違う気がする」

「どう違う?」

「去年は、楽しいって思うことに罪悪感があった。今年は、楽しいって思っていい気がする」

悠真はその言葉を、しばらく黙って受け止めた。

「それでいいんだと思う」

「うん」

二人は並んで歩きながら、夏の終わりに向かう夜道を進んでいった。