ベストフレンズ

 七月下旬。花火大会まであと一週間。紗奈は前日から少し落ち着かない様子を見せていた。

「緊張してる?」と悠真が聞く。

「うん、なんか。楽しみにしすぎると、当日ダメだったらどうしようって思っちゃう」

「ダメだったらダメでいいだろ。来年もあるし」

「……それだけで、ちょっと気が楽になる」

紗奈はそう言って小さく笑った。期待と不安が同時にあることを、隠さずに言えるようになっていた。



 恒一は夏期講習の合間を縫って、悠真に進路の話を相談した。

「正直、行きたい大学が決まらない。お前らみたいに、はっきりしてるわけじゃないし」

「俺だって紗奈のこと考える前は、何も決まってなかったよ」

「それ、励ましてんのか脅してんのか分かんねえな」

二人は笑いながら、それぞれの不確かさを共有した。完璧な答えを持っている必要はない、というのが、この一年で悠真が学んだことの一つだった。



 部室では、玲奈がコンクールの結果を聞いて戻ってきた。悠真の三枚のうち、「二人の影」が入選したという。

「おめでとう。これ、紗奈さんに見せてあげて」

その夜、悠真は紗奈に結果を伝えた。

「私が写ってる写真が、入選したんだ」

「お前のおかげだよ」

「違う。悠真が撮ったから」

「お前がいたから撮れたんだよ」

紗奈は少し黙ってから、「ありがとう」と小さく言った。以前なら謙遜して流していたはずの言葉を、そのまま受け取れるようになっていた。



花火大会前日の夜、紗奈からメッセージが届いた。

「明日、調子悪くなったら、途中で帰ってもいい?」

「もちろん。無理して最後までいる必要ない」

「ありがとう。それ聞いて、安心して眠れる」

悠真はその言葉に、これまでの一年間の積み重ねを感じた。完璧な約束ではなく、いつでも変更できる約束。その柔らかさが、二人の関係を以前より長く続けられるものにしていた。