ベストフレンズ

 六月。期末試験が近づく中、悠真は提出物の遅れを担任に指摘される。「最近どうした」と聞かれ、悠真は「大丈夫です」とだけ答えた。その言葉が、紗奈がよく使っていたものと同じだということに、口にした瞬間、自分でも気づいた。



 放課後、恒一に呼び出されてファミレスへ行く。

「お前、自分のことちゃんと話せよ」

恒一は珍しく真剣な顔で言った。悠真はメニューを見ながら、しばらく黙っていたが、ようやく口を開く。

「紗奈の調子がいい日は安心する。悪い日は、自分まで沈む。それの繰り返しで、最近、自分が何を考えてるのかよく分からなくなる時がある」

「それ、紗奈に言ったか」

「言えない。紗奈に心配かけたくない」

恒一はため息をついた。

「それ、紗奈が言ってたセリフと同じだぞ」

悠真は黒目を逸らした。指摘されて初めて、自分が紗奈と同じやり方で本音を隠していたことに気づいた。



 部室では、玲奈が新しいフィルムを悠真に渡しながら言う。

「今日は何でもいいから、自分が撮りたいものを撮ってきて。紗奈さん抜きで」

「それ、どういう意味」

「悠真の写真、最近全部紗奈さんが写ってる。それ以外、何にも撮ってないでしょ」

指摘されて、悠真はスマホの写真フォルダを開いた。確かに、この一ヶ月、紗奈以外を撮った写真がほとんどなかった。

放課後、悠真は一人で河川敷を歩き、夕日や橋、自転車の影など、何の意味もないものを撮った。シャッターを切るたび、少しだけ肩の力が抜ける感覚があった。


 夜、紗奈から「今日は普通だった」というメッセージが届く。悠真はいつものように「よかった」と返したあと、少し考えて、続けて送った。

「今日、紗奈なしで写真撮ってきた。河川敷の夕日、悪くなかった」

すぐに返信が来た。

「見たい」

「今度見せる」

短いやりとりだったが、悠真はその夜、初めて自分のための時間を持てたことに、小さな安堵を感じていた。紗奈を支えることと、自分を消すことは、同じではない。そのことに、まだうまく言葉をつけられないまま、悠真は少しずつ気づき始めていた。