四月。
新しいクラス発表が貼り出された朝、悠真は人だかりの中で自分の名前を探した。
三年二組。
隣を見ると、紗奈も同じクラスだった。
「また一緒だ」
紗奈が言った。
「うん」
それだけで、悠真には十分だった。
恒一は三年四組になった。
「お前ら離れたことないな」と恒一が言い、「玲奈は?」と悠真が聞いた。
玲奈は三年一組だった。
四人でそれぞれのクラスを確認して、昇降口に集まった。
「まあ、廊下で会えるしな」と恒一が言った。
玲奈が「そうですね」と言った。
紗奈が「お昼は一緒に食べよう」と言った。
その言葉が、悠真には少し眩しかった。
冬の紗奈には、そういう言葉が出てこなかったから。
新しい教室。
紗奈の席は窓際の真ん中あたりだった。悠真の席は通路側で、二列離れていた。
授業の合間、悠真はときどき紗奈の方を見た。
ノートを取っていた。先生の話を聞いていた。
ただそれだけのことが、悠真には今年は違う重さを持っていた。
放課後。
四人で桜を見に行った。
川沿いの桜が、ちょうど満開だった。
「きれいだね」と紗奈が言った。
「毎年見てるけど、毎年きれいだな」と恒一が言った。
玲奈がスマホで写真を撮っていた。
悠真はカメラを持ってきていた。
桜を撮った。川面に映る桜を撮った。
それから、気づいたら三人の後ろ姿を撮っていた。
帰り道、紗奈が隣に来た。
「今日、楽しかった」
悠真は紗奈を見た。
「うん」
「ちゃんと楽しいって思えた。久しぶりに」
悠真は何も言わなかった。
言葉より先に、胸の奥が動いた。
「それ、俺に言ってくれてありがとう」
紗奈は少し首を傾けた。
「なんで?」
「嬉しかったから」
紗奈は少し考えてから、笑った。
「悠真って、たまにそういうこと言うよね」
「そういうこと?」
「素直なこと」
「普通だろ」
「普通じゃないよ」
夜。
悠真は今日撮った写真を見返した。
桜の写真。川面の写真。
三人の後ろ姿の写真。
その中に一枚、紗奈が川を見ている横顔があった。
撮ったつもりのない一枚だった。
でも紗奈はそこに、ちゃんといた。
冬とは違う顔で、川を見ていた。
悠真はその写真を、しばらく眺めた。
クリニックは、三年生になっても続いていた。
今は月に一度になっていた。
「先生に、楽しいって思えた日があったって話した」と紗奈がメッセージで教えてくれた。
「先生、良かったねって言ってくれた」
悠真は「それは良かった」と返した。
「まだ波があるけど」と紗奈が続けた。
「うん」
「でも、波があることを知ってるだけで、少し違う」
悠真は画面を見つめた。
「波が来たとき、また言って」
「言う」
「約束?」
「約束」
春が来ていた。
完全に冬が終わったわけじゃない。
まだ寒い朝もある。紗奈の波が消えたわけでもない。
でも、川沿いの桜は満開で、紗奈は今日「楽しかった」と言えた。
それが今年の春の、始まりだった。
新しいクラス発表が貼り出された朝、悠真は人だかりの中で自分の名前を探した。
三年二組。
隣を見ると、紗奈も同じクラスだった。
「また一緒だ」
紗奈が言った。
「うん」
それだけで、悠真には十分だった。
恒一は三年四組になった。
「お前ら離れたことないな」と恒一が言い、「玲奈は?」と悠真が聞いた。
玲奈は三年一組だった。
四人でそれぞれのクラスを確認して、昇降口に集まった。
「まあ、廊下で会えるしな」と恒一が言った。
玲奈が「そうですね」と言った。
紗奈が「お昼は一緒に食べよう」と言った。
その言葉が、悠真には少し眩しかった。
冬の紗奈には、そういう言葉が出てこなかったから。
新しい教室。
紗奈の席は窓際の真ん中あたりだった。悠真の席は通路側で、二列離れていた。
授業の合間、悠真はときどき紗奈の方を見た。
ノートを取っていた。先生の話を聞いていた。
ただそれだけのことが、悠真には今年は違う重さを持っていた。
放課後。
四人で桜を見に行った。
川沿いの桜が、ちょうど満開だった。
「きれいだね」と紗奈が言った。
「毎年見てるけど、毎年きれいだな」と恒一が言った。
玲奈がスマホで写真を撮っていた。
悠真はカメラを持ってきていた。
桜を撮った。川面に映る桜を撮った。
それから、気づいたら三人の後ろ姿を撮っていた。
帰り道、紗奈が隣に来た。
「今日、楽しかった」
悠真は紗奈を見た。
「うん」
「ちゃんと楽しいって思えた。久しぶりに」
悠真は何も言わなかった。
言葉より先に、胸の奥が動いた。
「それ、俺に言ってくれてありがとう」
紗奈は少し首を傾けた。
「なんで?」
「嬉しかったから」
紗奈は少し考えてから、笑った。
「悠真って、たまにそういうこと言うよね」
「そういうこと?」
「素直なこと」
「普通だろ」
「普通じゃないよ」
夜。
悠真は今日撮った写真を見返した。
桜の写真。川面の写真。
三人の後ろ姿の写真。
その中に一枚、紗奈が川を見ている横顔があった。
撮ったつもりのない一枚だった。
でも紗奈はそこに、ちゃんといた。
冬とは違う顔で、川を見ていた。
悠真はその写真を、しばらく眺めた。
クリニックは、三年生になっても続いていた。
今は月に一度になっていた。
「先生に、楽しいって思えた日があったって話した」と紗奈がメッセージで教えてくれた。
「先生、良かったねって言ってくれた」
悠真は「それは良かった」と返した。
「まだ波があるけど」と紗奈が続けた。
「うん」
「でも、波があることを知ってるだけで、少し違う」
悠真は画面を見つめた。
「波が来たとき、また言って」
「言う」
「約束?」
「約束」
春が来ていた。
完全に冬が終わったわけじゃない。
まだ寒い朝もある。紗奈の波が消えたわけでもない。
でも、川沿いの桜は満開で、紗奈は今日「楽しかった」と言えた。
それが今年の春の、始まりだった。



