二月に入った。
紗奈のクリニックは、二週間に一度のペースになった。
悠真は毎回、待合室で待った。
二回目の診察の帰り道、紗奈が言った。
「薬、出してもらうことになった」
「そっか」
「飲んだことないから、怖いけど」
「先生に聞いた? 飲み始めたらどうなるか」
「うん。最初は眠くなるかもしれないって。でも、あの朝の感じが少し楽になるかもしれないって」
悠真は頷いた。
「じゃあ試してみる価値あるな」
紗奈は「そうだね」と言った。
以前より少しだけ、声に厚みが戻っていた。
でも、毎日が上向きなわけではなかった。
薬を飲み始めて数日後、深夜に紗奈からメッセージが来た。
「眠れない。頭が変な感じ」
悠真はすぐ返した。
「副作用かも。クリニック、電話相談できるって言ってなかった?」
「……そうだった」
「明日の朝、電話してみて。一人で抱えなくていい」
「うん」
翌朝、「薬の量を調整してもらえることになった」と連絡が来た。
中旬、恒一と玲奈と四人でファミレスに行った。
紗奈が外に出るのは久しぶりだった。
恒一がくだらない話を続けるうちに、紗奈も少しずつ笑うようになった。
玲奈が「好きなデザート頼んでいいですよ、今日は恒一さんが払うので」と言い、恒一が「聞いてない」と言い、悠真が「言ってたよ」と嘘をついた。
紗奈がパフェを頼んだ。全部は食べられなかったけれど、半分以上食べた。
帰り際、玲奈が紗奈にそっと言った。
「来てくれて嬉しかったです」
紗奈は「ありがとう」と返した。
月の終わり。
五回目の診察の帰り道、紗奈がぽつりと言った。
「先生に、弱さを見せられなかった話をした」
「うん」
「先生がね、『弱さを見せることは、相手を信頼しているってことだよ』って言ってた」
「……そうだな」
「私、ずっと逆だと思ってた。弱さを見せたら、重くなるって。嫌われるって」
悠真は少し考えてから言った。
「重くはあったよ」
紗奈が立ち止まった。
「でも、嫌じゃなかった。重さと嫌さは、違うから」
紗奈はしばらく悠真を見ていた。それから、小さく笑った。
「……正直だね」
「それくらいは言える」
冬の終わりの風が、少しだけ緩んでいた。
紗奈のクリニックは、二週間に一度のペースになった。
悠真は毎回、待合室で待った。
二回目の診察の帰り道、紗奈が言った。
「薬、出してもらうことになった」
「そっか」
「飲んだことないから、怖いけど」
「先生に聞いた? 飲み始めたらどうなるか」
「うん。最初は眠くなるかもしれないって。でも、あの朝の感じが少し楽になるかもしれないって」
悠真は頷いた。
「じゃあ試してみる価値あるな」
紗奈は「そうだね」と言った。
以前より少しだけ、声に厚みが戻っていた。
でも、毎日が上向きなわけではなかった。
薬を飲み始めて数日後、深夜に紗奈からメッセージが来た。
「眠れない。頭が変な感じ」
悠真はすぐ返した。
「副作用かも。クリニック、電話相談できるって言ってなかった?」
「……そうだった」
「明日の朝、電話してみて。一人で抱えなくていい」
「うん」
翌朝、「薬の量を調整してもらえることになった」と連絡が来た。
中旬、恒一と玲奈と四人でファミレスに行った。
紗奈が外に出るのは久しぶりだった。
恒一がくだらない話を続けるうちに、紗奈も少しずつ笑うようになった。
玲奈が「好きなデザート頼んでいいですよ、今日は恒一さんが払うので」と言い、恒一が「聞いてない」と言い、悠真が「言ってたよ」と嘘をついた。
紗奈がパフェを頼んだ。全部は食べられなかったけれど、半分以上食べた。
帰り際、玲奈が紗奈にそっと言った。
「来てくれて嬉しかったです」
紗奈は「ありがとう」と返した。
月の終わり。
五回目の診察の帰り道、紗奈がぽつりと言った。
「先生に、弱さを見せられなかった話をした」
「うん」
「先生がね、『弱さを見せることは、相手を信頼しているってことだよ』って言ってた」
「……そうだな」
「私、ずっと逆だと思ってた。弱さを見せたら、重くなるって。嫌われるって」
悠真は少し考えてから言った。
「重くはあったよ」
紗奈が立ち止まった。
「でも、嫌じゃなかった。重さと嫌さは、違うから」
紗奈はしばらく悠真を見ていた。それから、小さく笑った。
「……正直だね」
「それくらいは言える」
冬の終わりの風が、少しだけ緩んでいた。



