夢百夜

大学時代、男の幽霊に付きまとわれているという女友達がいた。

その幽霊は異常なほど執着心が強く、彼女がシャワーを浴びている間も脱衣所のドアに張り付き、隙間からじっと覗き続けるのだという。「視線が痛い」「息が詰まる」と彼女は毎日のように泣いていた。

ちょうどその頃、大学の地下書庫に、若くして亡くなった女の子の霊が出ると噂されていた。
私は閃いた。

「女好きの男の幽霊なら、死んだ女の霊をあてがってやればいいんじゃないか?」

生きた女には触れられない。でも同じ死者同士なら、抱き合える。きっとあっという間に夢中になって、生きている女など眼中に無くなるはずだ。

私は女友達を説得し、夜の地下書庫へ連れていった。彼女は恐怖で震えていたが、私は「これで解放されるよ」と勇気づけた。

作戦は成功した。
地下書庫に行って以来、女友達の家から男の幽霊の気配はピタリと消え失せ、彼女は「やっとお風呂にゆっくり入れる」と涙を流して喜んでいた。

​それだけではない。
お見合いの場となった大学の図書館では、しばらくして、夜な夜な書庫の奥から「おぎゃあ、おぎゃあ」と、赤ちゃんのおばけが泣き出す声が聞こえるようになったという。
死者同士、よほど相性が良かったのだろう。怪異(あたらしいいのち)まで誕生させてしまうなんて! 我ながら素晴らしい縁結びをしたものだと感心した。

その後。あの女友達は自宅の風呂場で、湯船に顔を突っ込んだ状態で、溺れて死んでいるのが発見された。 もしかしたら、彼女の風呂場にはよくないものがいたのかもしれない。