うちの大学の図書館には、奇妙な噂があった。
918の分類コード――日本文学の棚の近くにある椅子でうたた寝をすると、必ず古風な図書館の夢を見るのだという。不思議に思っていると、クラシカルな制服を着た司書の女性が現れ、一冊の本を手渡してくる。その本が、信じられないほど面白い内容らしい。
私には、作家を目指している友人がいた。
彼女は才能に恵まれず、いつも「良い作品が書けない」と悩んでいた。例の噂を聞きつけた彼女は、藁にもすがる思いで図書館の椅子に座り、仮眠をとった。
翌日、彼女は興奮した様子で私に語った。噂は本当だった、と。
夢の中で手渡された本は、これまで読んだどんな小説よりもプロットが洗練され、文章も魅力的だったという。
「あの本をそのまま書き写して、新人賞に応募する」
彼女は目を輝かせて意気込んでいた。
しかし、問題があった。
どれだけ集中して読んでも、物語の結末を迎える前に、どうしても現実の身体が目を覚ましてしまうのだ。最高の傑作を書き上げるためには、どうしても最後まで読み切る必要があった。
だから、私は彼女に強力な睡眠薬をあげた。これで途中で目覚めることなく、物語のすべてを記憶に刻めるはずだった。
しかし、彼女は、二度と目覚めなかった。今も彼女は、あの古風な図書館の静寂の中で、極上の物語の続きを読み進めているのだろうか。918の棚を見るたびに、彼女のことを懐かしく思い出す。
918の分類コード――日本文学の棚の近くにある椅子でうたた寝をすると、必ず古風な図書館の夢を見るのだという。不思議に思っていると、クラシカルな制服を着た司書の女性が現れ、一冊の本を手渡してくる。その本が、信じられないほど面白い内容らしい。
私には、作家を目指している友人がいた。
彼女は才能に恵まれず、いつも「良い作品が書けない」と悩んでいた。例の噂を聞きつけた彼女は、藁にもすがる思いで図書館の椅子に座り、仮眠をとった。
翌日、彼女は興奮した様子で私に語った。噂は本当だった、と。
夢の中で手渡された本は、これまで読んだどんな小説よりもプロットが洗練され、文章も魅力的だったという。
「あの本をそのまま書き写して、新人賞に応募する」
彼女は目を輝かせて意気込んでいた。
しかし、問題があった。
どれだけ集中して読んでも、物語の結末を迎える前に、どうしても現実の身体が目を覚ましてしまうのだ。最高の傑作を書き上げるためには、どうしても最後まで読み切る必要があった。
だから、私は彼女に強力な睡眠薬をあげた。これで途中で目覚めることなく、物語のすべてを記憶に刻めるはずだった。
しかし、彼女は、二度と目覚めなかった。今も彼女は、あの古風な図書館の静寂の中で、極上の物語の続きを読み進めているのだろうか。918の棚を見るたびに、彼女のことを懐かしく思い出す。



