夢百夜

人身事故を激しく嫌う友人がいた。

ある日、彼と一緒に外出した際、運悪く人身事故に遭遇した。彼は露骨に不快そうな顔をして大きく舌打ちをした。運行再開を待つのも面倒なので、二人でタクシーに乗り込むと、彼は車内で憤慨した様子でこう吐き捨てた。

「電車に飛び込むなんて、何千何万もの人間に迷惑がかかる。そんな周囲の空気を読めないバカだから、周りからも見捨てられて、結局自殺する羽目になるんだよ」

彼のあまりに辛辣な物言いに、私はふと疑問に思って尋ねてみた。

「じゃあ、もしあなたが死にたくなったらどうするの? 空気の読める死に方ってなんなの?」

彼は少し考え、事も無げに答えた。

「すでに事故物件になっている部屋のソファの上でひっそり死ぬ。それが一番誰にも迷惑をかけない、正しい自殺方法だ」

その翌日の朝のことだった。彼は、通勤途中に電車に飛び込んで死んだ。