夢百夜

高校生の頃に出会った少女は、「私、他人の夢の中を自由に行き来することができるんだ」と、大真面目な顔で言った。
私は当然、ただの嘘だと思って鼻で笑った。

「じゃあ、本当にできるっていうなら、今夜、紫色のバラの花束を持って私の夢に出てきてみてよ」

その夜、私は見事な紫色のバラが不気味なほど咲き誇る、広大なバラ園の夢を見た。戸惑う私の前に、昼間の彼女が約束通り現れて、勝ち誇ったように微笑んだ。

「ね? 本当でしょ?」

翌日、現実世界で再会した彼女は、自分のその特別な才能をこれでもかと自慢してきた。
けれど、その子は学歴が良いわけでもなく、容姿が優れているわけでもなく、実家が裕福なわけでもない、何ひとつ持たない平凡以下の人間だった。何より、他人の夢に少しお邪魔できる程度の能力が、一体何の役に立つというのだろう。
私は心底退屈になって、冷たく言い放ってやった。

「でも、そんな才能、現実では一銭の役にも立たないから、別にこれっぽっちもうらやましくないよ」

すると、彼女は顔を真っ赤にして怒り狂った。
彼女が言うには、その才能はすでに現実世界で、最も実用的な方法で使われているのだという。彼女の本当の生業は、決して証拠の残らない「暗殺者」だった。

やり方は極めてシンプル。
ターゲットの夢に深く潜り込み、相手が最も見たいもの、この世で最も美しい光景を限界まで見せつけるのだという。そうして現実以上の至福に浸らせたところで、ターゲットの魂に「もう二度と現実世界に目覚めたくない」と強く思わせ、そのまま永遠に眠らせて脳死に至らしめる。

「それで、その暗殺は上手くいっているの?」

私が退屈そうに聞き返すと、彼女は誰もがニュースで知っている、ある大国のトップの名前を口にした。

「あいつがこっち側の世界に完全に閉じこもって、現実で死ぬまで、あとちょっとだよ」

彼女はそう言って、不敵に笑った。