夢百夜


高校時代のことだ。私は一人の人形作家の男と知り合った。彼は、息をのむほどに美しい少女の人形ばかりを作る、偏執的なこだわりを持った男だった。私は彼の、どこか生気のない美しい作品群に心底心酔していた。

ある日のこと、彼はいつもより一段と高揚した様子で私に囁いた。

「あなたにだけは、僕のとっておきの最高傑作……僕の至高の娘を見せてあげましょう」

そう言って彼に連れられて入ったアトリエの奥には、一体の美しい少女人形が佇んでいた。

その人形は、目の覚めるような見事な友禅の振袖を身に纏っていた。ただ、全体の繊細なバランスに反して、奇妙なことにその人形の「お腹」だけが不自然に丸く、大きく膨らんでいる。私が怪訝な視線を向けると、彼は人形の頬を愛おしそうになぞりながら、陶然とした声で言った。

「この人形はね、子どもを妊娠しているんですよ。この人形の粘土にはね、僕の体液を混ぜてあるんですよ」

そのうっとりとした表情を見て、私は「究極の近親相姦だなぁ」と、変に感心をしてしまった。

それから二年後のこと。

彼は突如として、アトリエから姿を消してしまった。警察の捜査が入っても、彼の行方はおろか、アトリエから出たのがいつだったのかさえ掴めなかったという。

もぬけの殻となったアトリエの真ん中には、ただ一つ、あの友禅を纏った少女人形だけがぽつんと残されていた。

ただ、その姿は二年前とは明らかに異なっていた。人形の大きく膨らんでいたはずのお腹は、まるで内側から何か鋭利なものが突き破って出てきたかのように、無残にひび割れ、壊れていた。