夢百夜

大学院に入り、私は日本の呪詛について研究していた。

ある日、ある古い修験道寺院に伝わっていたという、本物の呪術の写本を読み進めていたところ、非常に興味深い話が載っていた。

朝顔の花を育てる、という一見風流な呪法だ。
ただし、育てる際には普通の水を与えるのではなく、自分の鮮血を混ぜた水を毎日欠かさず注ぎ込まなければならない。そうして自分の血で咲かせた朝顔を、呪いたい相手の家の玄関先に置いておく。すると、その相手は朝顔の花が昼にはあっけなく(しぼ)んでしまうように、儚く、急速に衰弱して死んでしまうのだという。

ちょうどその頃、職場で悪質なパワハラに遭い、精神的に追い詰められて困っている友人がいた。

私は世間話のついでに、資料で見つけたこの面白い話を彼女に教えてあげた。すると、藁にもすがる思いだったのだろう、彼女は「私、試してみる!」といって、朝顔を育て始めた。

しかし、元からパワハラで衰弱していた彼女だ。毎日のように自傷して血を捧げ続けた結果、極度の貧血に陥ってしまったらしい。彼女は通勤途中に、駅の階段から足を踏み外して転げ落ち、そのまま呆気なく死んでしまった。

初夏がきて、彼女の部屋のベランダに取り残されていた朝顔は、大輪の花を咲かせた。燃えるように真っ赤で、息をのむほど美しい花だった。

私はその素晴らしい出来栄えの朝顔を何枚も写真に収め、今でもスマホの待ち受け画面に設定している。

友人や周囲の人に見せるたび、「それ、なんていう品種? すごく綺麗!」と褒められるのが、少し誇らしい。彼女の流した血や涙も、これで少しは報われたんじゃないかと思って、ちょっとだけ元気にもなれる。