ある日、蔵の片付けをしていたとき、埃を被った古いモノクロの写真帖を見つけた。
ページをめくっていると、一枚の写真に目が留まった。そこに写っていたのは、目が大きくて愛らしい顔立ちの若い女性だった。
けれど、その可愛らしい造形とは裏腹に、彼女は不自然に目を引き攣るように細め、ひどく不快そうな、歪んだ表情でレンズを睨みつけていた。不思議に思って他のページをめくってみたが、どの写真の彼女も、一様に自分の顔を嫌悪しているかのような、酷い強張り方をしている。
ちょうど近くにおばがいたので、その写真を指差して尋ねてみた。
「ねえ、この人、誰? なんでこんな表情をしてるの?」
おばは写真帖を覗き込み、愉快そうに目を細めた。
「ああ、その人はね、あなたの曽祖母の嫁ぎ先の、旦那さんのお姉さんよ。可哀想に、当時はね、お雛様みたいな切れ長の、すっきりとした上品な顔立ちがよいとされてたから……。この人みたいな丸い目はね、『軽薄で安っぽく見える』って言われて、醜女扱いされて全然モテなかったのよ。結局、誰とも結婚できなくてね、親戚中から老嬢って陰口を叩かれて、惨めな人生を送った人なの」
おばの説明を聞きながら、私はまじまじと彼女の顔を見つめた。
(ふうん。でも、現代の日本だったら、この人、歌舞伎町あたりにいれば男を何人も狂わせて、大金を貢がせられそうな顔だけどな。涙袋も天然でふっくらしてるし、唇も肉感的で……驚くほど今風な顔立ちじゃない)
そう思った私は、ちょっとした思いつきで、彼女の写真をスマホでスキャンしてみた。
そして、画像生成AIのアプリを使って、、現代風のトレンドメイクを施し、今時の地雷系と呼ばれる服装をさせてみた。
画面に出力されたのは、地下アイドルのセンターを張っていそうな、あざといほどの魅力を放つ絶世の美少女の姿だった。
面白くなった私は、実験のつもりで、そのAI画像をそのままマッチングアプリの新規アカウントに登録してみた。プロフィールは適当だ。
すると、登録してからわずか30分の間に、「いいね」の通知が500件以上も殺到した。「本物の天使ですか?」「一目惚れしました」「今夜会えませんか?」といった、男たちからの熱狂的で、浅ましい絶賛のコメントが画面を埋め尽くしていく。
私の手元で次々と跳ね上がる数字を、おばも「あらあら」と、おかしそうに眺めていた。
さて、ひとしきり現代の男たちの滑稽な反応を楽しんだ後、私はアプリのアカウントをあっさりと削除し、スマホを置いた。それから、元のモノクロ写真を写真帖の台紙に戻そうとした。
その時、指先が止まった。
写真の中の彼女の顔が、変わっていた。
さっきまで、自分の顔を恥じるように不自然に引き攣らせていたあの表情が、完全に消え失せていたのだ。
彼女はカメラのレンズを真っ直ぐに見据え、自信と傲慢さに満ち溢れた、完璧な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
モノクロの静寂の中で、彼女の瞳だけが、爛々と生気に満ちて輝いている。
「あなた、生まれてくる時代が、ちょっとだけ早すぎたんだね」
私は写真帖をパタンと閉じ、自分の審美眼が正しかったことに満足しながら、蔵の出口へと歩き出した。
ページをめくっていると、一枚の写真に目が留まった。そこに写っていたのは、目が大きくて愛らしい顔立ちの若い女性だった。
けれど、その可愛らしい造形とは裏腹に、彼女は不自然に目を引き攣るように細め、ひどく不快そうな、歪んだ表情でレンズを睨みつけていた。不思議に思って他のページをめくってみたが、どの写真の彼女も、一様に自分の顔を嫌悪しているかのような、酷い強張り方をしている。
ちょうど近くにおばがいたので、その写真を指差して尋ねてみた。
「ねえ、この人、誰? なんでこんな表情をしてるの?」
おばは写真帖を覗き込み、愉快そうに目を細めた。
「ああ、その人はね、あなたの曽祖母の嫁ぎ先の、旦那さんのお姉さんよ。可哀想に、当時はね、お雛様みたいな切れ長の、すっきりとした上品な顔立ちがよいとされてたから……。この人みたいな丸い目はね、『軽薄で安っぽく見える』って言われて、醜女扱いされて全然モテなかったのよ。結局、誰とも結婚できなくてね、親戚中から老嬢って陰口を叩かれて、惨めな人生を送った人なの」
おばの説明を聞きながら、私はまじまじと彼女の顔を見つめた。
(ふうん。でも、現代の日本だったら、この人、歌舞伎町あたりにいれば男を何人も狂わせて、大金を貢がせられそうな顔だけどな。涙袋も天然でふっくらしてるし、唇も肉感的で……驚くほど今風な顔立ちじゃない)
そう思った私は、ちょっとした思いつきで、彼女の写真をスマホでスキャンしてみた。
そして、画像生成AIのアプリを使って、、現代風のトレンドメイクを施し、今時の地雷系と呼ばれる服装をさせてみた。
画面に出力されたのは、地下アイドルのセンターを張っていそうな、あざといほどの魅力を放つ絶世の美少女の姿だった。
面白くなった私は、実験のつもりで、そのAI画像をそのままマッチングアプリの新規アカウントに登録してみた。プロフィールは適当だ。
すると、登録してからわずか30分の間に、「いいね」の通知が500件以上も殺到した。「本物の天使ですか?」「一目惚れしました」「今夜会えませんか?」といった、男たちからの熱狂的で、浅ましい絶賛のコメントが画面を埋め尽くしていく。
私の手元で次々と跳ね上がる数字を、おばも「あらあら」と、おかしそうに眺めていた。
さて、ひとしきり現代の男たちの滑稽な反応を楽しんだ後、私はアプリのアカウントをあっさりと削除し、スマホを置いた。それから、元のモノクロ写真を写真帖の台紙に戻そうとした。
その時、指先が止まった。
写真の中の彼女の顔が、変わっていた。
さっきまで、自分の顔を恥じるように不自然に引き攣らせていたあの表情が、完全に消え失せていたのだ。
彼女はカメラのレンズを真っ直ぐに見据え、自信と傲慢さに満ち溢れた、完璧な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
モノクロの静寂の中で、彼女の瞳だけが、爛々と生気に満ちて輝いている。
「あなた、生まれてくる時代が、ちょっとだけ早すぎたんだね」
私は写真帖をパタンと閉じ、自分の審美眼が正しかったことに満足しながら、蔵の出口へと歩き出した。



