夢百夜

大学院生だった頃のこと。私は日本の古い怪談や呪術に関する写本を収集するために、古書店によく通っていた。

そこで、私と同じように古い書物を漁る、一人の高校生の青年と知り合った。彼は歳の割にひどく早熟な読書家で、独特の陰りを帯びた雰囲気を持っていた。

ある日、その古書店に、戦前の高等女学校に通っていたという12歳の女の子の古い日記帳が売りに出されていた。青年はそれをひどく気に入り、買い求めた。
後日、彼から見せてもらった日記には、育ちの良さを窺わせる文字で、海や高原へ出かけた夏の思い出や友人との生活、授業が楽しいことなど……彼女の瑞々しい日常が楽しげに綴られていた。しかし、その日記は彼女が高等女学校の2年生になる直前でページが尽きて終わっていた。

青年は「彼女の人生の続きがもっと見たいな」と、まるで身内を亡くしたかのように悲しんでいた。

それからの彼は、何かに取り憑かれたように、日本中のあらゆる古書店や骨董店を巡り始めた。彼の執念に呼応するように、彼女の「残りの日記」が次々と見つかっていった。

まずは2年生、次に3年生、そして4年生――。

16歳になった少女の日記をめくりながら、青年はうっとりとした目で私に語った。
「彼女もね、僕とまったく同じ悩みを抱えているんだ。痛いくらいに共感できる」
彼は、時を超えてその戦前の少女に深く恋をしていた。

そしてとうとう、彼は彼女の高等女学校卒業の年にあたる、「5年生――17歳」の日記帳まで掘り当てた。
しかし、それを読み進めていた青年は、途中でボロボロと涙を流して泣き崩れてしまった。

日記の最後には、あまりにも残酷な結末が書き残されていたのだ。

17歳になった彼女は、親から望まぬ政略結婚を強制されていた。しかし、彼女の心には「私の本当の運命の相手は、別の場所にいる気がしてならない」という確信があったようだ。
知らない男のものになるくらいなら、清らかな身のままで逝きたい。彼女はクリスマスの夜、先祖から伝わる遺品の守り刀で自らの胸を刺し、命を絶つと宣言して日記を終えていた。

青年は狂わんばかりの悲嘆にくれた。
そしてある日、私にその少女の日記帳をすべて手渡すと、「僕も彼女のところへ行く」と言い残し、その年の17歳のクリスマスの夜、自宅の自室で日記の彼女と全く同じように、自らの胸を鋭利な刃物で突き刺して死んでしまった。

彼が命を絶った後、私は彼から託された日記を眺めながら、ふと奇妙な疑問が湧いた。
「この少女は、本当に実在したのだろうか?」

気になった私は、大学の図書館にこもり、当時の新聞のマイクロフィルムを片っ端から検索してみた。
――驚いたことに、彼女は本当に実在していた。

昭和8年12月25日。
上流階級の令嬢がクリスマスに自害したというスキャンダルは、当時の世間を大いに騒がせたらしい。翌12月26日の新聞には、彼女の美しい顔写真とともに、その死の異常な詳細が掲載されていた。

記事によると、彼女の遺体が発見された自室は、少女一人の身体から流れたとは到底思えないほどの、尋常ではない量の血で、血の海と化していたという。まるで、誰かもう一人分の血が、その部屋にぶちまけられたかのように。

そういえば、胸を突き刺して死んだあの青年の遺体は、致命傷を負っていたにもかかわらず、なぜか出血がほとんどなかった。医師も警察も不思議がっていたことを、ふと思い出した。