私の曽祖父がまだ八歳の少年だった頃、世の中は戦争の真っ只中だった。甘いものが大好きだった曽祖父にとって、あらゆる「贅沢」が奪われていく戦時下の生活は、言葉にできないほど辛く、惨めなものだったらしい。
そんなある日のこと、都会から空襲を逃れて、大勢の子どもたちが曽祖父の暮らす田舎へと疎開してきた。
その中に、曽祖父と同じ八歳の、都会育ちの少女がいた。
彼女の家は東京の裕福な商家だったそうだ。着ている衣服も、汚れてはいるが、どこか上品だった。曽祖父はたちまち彼女と親しくなり、二人はいつも村の裏手にある鬱蒼とした林の中で遊ぶようになった。
少女も甘いものが好きだった。彼女は将来は自分でお菓子を作りたいと願っていて、曽祖父に、自分の考えた極上のお菓子の話を聞かせるのだった。
「戦争が終わったら、一緒に甘いお菓子をたくさん食べよう」
ひもじいお腹を抱えながら、二人はそんな「甘い約束」を交わして飢えを凌いでいたという。
しかし、戦争は長引き、疎開の子たちの環境もいよいよ悲惨なものになっていった。地元の人々も自分の家族を食わせるだけで精一杯になり、よそ者である疎開児たちへの風当たりは日を追うごとに冷たくなっていった。
ある日、少女は高熱を出して寝込んでしまった。
ただの風邪だったが、栄養失調の身体には致命的だった。医者も薬もなく、少女の顔は日に日に土色に変色し、呼吸は浅くなっていった。
曽祖父が最後に見舞いに行った夜、少女はもう目を開けることもできなかった。彼女は自身の指を噛みながら、うわ言のように呟いていた。
「お砂糖……。お菓子の味がする」
それが、彼女の最期の言葉だった。翌朝、少女は冷たくなっていた。
親族とも連絡がつかないまま、彼女の遺体は村の大人たちによって、ろくな棺桶も与えられないまま、裏山の端に大雑把に掘られた穴へと埋められた。
それから数日後のこと。
曽祖父は、一人で彼女が埋められた場所へと向かった。少女が今わの際に遺した「お菓子の味がする」という言葉が、どうしても頭から離れなかったからだ。
曽祖父は小さな手で泥を掘り返し、埋められたばかりの少女の遺体を引きずり出した。そして、その冷たくなった小さな手首に、持ち歩いていた錆びた小刀を突き立てた。傷口からは、さらさらとした血が零れた。曽祖父はためらうことなく、その血を指ですくい、口の中へと運んだ。
……それは、驚くほどに甘かった。
まるで、生前に彼女が夢見ていた極上の砂糖菓子が、そのまま血管の中で煮詰められたかのような、濃厚で、脳が痺れるほどの甘美な味がしたという。
大人になった曽祖父は、どんな高級な洋菓子を食べても「あの味には敵わない」と、晩年まで懐かしそうに語っていたそうだ。
そんなある日のこと、都会から空襲を逃れて、大勢の子どもたちが曽祖父の暮らす田舎へと疎開してきた。
その中に、曽祖父と同じ八歳の、都会育ちの少女がいた。
彼女の家は東京の裕福な商家だったそうだ。着ている衣服も、汚れてはいるが、どこか上品だった。曽祖父はたちまち彼女と親しくなり、二人はいつも村の裏手にある鬱蒼とした林の中で遊ぶようになった。
少女も甘いものが好きだった。彼女は将来は自分でお菓子を作りたいと願っていて、曽祖父に、自分の考えた極上のお菓子の話を聞かせるのだった。
「戦争が終わったら、一緒に甘いお菓子をたくさん食べよう」
ひもじいお腹を抱えながら、二人はそんな「甘い約束」を交わして飢えを凌いでいたという。
しかし、戦争は長引き、疎開の子たちの環境もいよいよ悲惨なものになっていった。地元の人々も自分の家族を食わせるだけで精一杯になり、よそ者である疎開児たちへの風当たりは日を追うごとに冷たくなっていった。
ある日、少女は高熱を出して寝込んでしまった。
ただの風邪だったが、栄養失調の身体には致命的だった。医者も薬もなく、少女の顔は日に日に土色に変色し、呼吸は浅くなっていった。
曽祖父が最後に見舞いに行った夜、少女はもう目を開けることもできなかった。彼女は自身の指を噛みながら、うわ言のように呟いていた。
「お砂糖……。お菓子の味がする」
それが、彼女の最期の言葉だった。翌朝、少女は冷たくなっていた。
親族とも連絡がつかないまま、彼女の遺体は村の大人たちによって、ろくな棺桶も与えられないまま、裏山の端に大雑把に掘られた穴へと埋められた。
それから数日後のこと。
曽祖父は、一人で彼女が埋められた場所へと向かった。少女が今わの際に遺した「お菓子の味がする」という言葉が、どうしても頭から離れなかったからだ。
曽祖父は小さな手で泥を掘り返し、埋められたばかりの少女の遺体を引きずり出した。そして、その冷たくなった小さな手首に、持ち歩いていた錆びた小刀を突き立てた。傷口からは、さらさらとした血が零れた。曽祖父はためらうことなく、その血を指ですくい、口の中へと運んだ。
……それは、驚くほどに甘かった。
まるで、生前に彼女が夢見ていた極上の砂糖菓子が、そのまま血管の中で煮詰められたかのような、濃厚で、脳が痺れるほどの甘美な味がしたという。
大人になった曽祖父は、どんな高級な洋菓子を食べても「あの味には敵わない」と、晩年まで懐かしそうに語っていたそうだ。



