心のパズル

 最初は、存在さえ、分からなかった。

 いつも歩いている、駅前通りでは、
たくさんの人と、すれ違っている。

 多分……あなたとも……何度も何度もすれ違ってた。

 あの日、私が折りたたみ傘を、
バックからコロンと落としてしまい、離れたところに、転がってしまった。

 私は急いで拾おうと、小走りしていた時……。

 見知らぬ男性が、落としてしまった折りたたみ傘を拾い上げて、
私の方に向かって来て、目の前で立ち止まった。

 砂ホコリをササッと手ではらってくれ、私に「綺麗な色の傘ですね」と、手渡してくれた。

 私がお礼を言うと……。

「あなたとは、何度かすれ違ってますよ。」

 一言だけ言い、反対側に歩いていった。


 その後は、駅前通りですれ違うたびに、向こうから、会釈してくるようになった。

 2日後、駅前通りにあるカフェの窓際で、カフェラテを飲んで、窓の外を
眺めていた。

しばらくして、
「隣、空いてますか?」と声をかけられ、「どうぞ」とこたえた。

 私は、チラリと横目で隣に座った人を見たら……。
 あの日、傘を拾ってくれた、彼だった。

「信号待ちをしてたら、窓際にあなたがいたから、つい……」と、彼が言ってきた。

 そこから、たわいのない会話を繰り返している。

 その後……何度か彼とのカフェでの時間が、楽しくて、胸の奥が痛くなっていくのが分かる。

 このまま、彼と一緒にいたいなと
思っていた。

 でも……
 そんな幸せは 長くは続かなかった。

 ある日の休日。
 ショピングモールで、ウィンドウショピングを楽しんでた。

 どこからか聞き覚えのある声が、
聞こえてくる。

 私は、声のする方へ振り返った。

 そこには彼がいて隣には、お腹の大きい女性がいた。

 すると、彼がこちらに気づき、
近寄ってきた。

「あれ?偶然だね。今日、休み?」

「はい、ウィンドウショピングしていました。」

その時、彼の隣りにいた女性が、近づいてきて……。

「パパ?こちらの方は?」

「前に、駅前通りで、綺麗な傘を
拾って持ち主に返したって話をしたろ?その時の傘の持ち主さんが、彼女
だったんだ」

「そうなんですよ。あの時は拾っていただいて、助かったんです。」

「そうだったの。私も綺麗な傘、
見たかったわ。」

「赤ちゃん 生まれるんですね。
お大事にしてください。」
「失礼しますね」

「ありがとうございます。お気をつけて」

 私は、その場から、立ち去り、エスカレーターに乗る。

 ショピングモールをでて、
近くにある、公園のベンチに座った。

 胸の奥にあるパズルのピースが、
一枚、そしてまた一枚ほどけていく……。

 そして私の心のパズルは……。
バラバラになった……。