「後で話がある」と言われた時。小春はすぐに何のことを言っているのか分かった。
リカルドがロイのことを「半分吸血鬼」と言っていたのが今でも脳裏に焼き付いている。あの時は何を言っているんだと思ったが、ロイの態度を見ていると嫌でも本当なんだとわかっていった。だがロイにどんな態度を取ればいいのかは分からない。
ーーロイ様。それでも私は……。
ロイが半分吸血鬼だったとしても、小春の気持ちは変わらない。悪鬼から小春を救い出してくれたあの日から、小春はずっとロイに惹かれていた。一緒に過ごせば過ごすほど、ロイを好きになっていく。
ーー私は貴方のそばにいたい。
今の関係がかりそめだと分かっていても、ロイが半分吸血鬼だとしても、小春のこの気持ちだけは変わらない。
あれから数時間後。身支度を整えた小春は執務室の前に来ていた。小春は大きく深呼吸して扉をノックした。すると部屋の中から「どうぞ」と声が聞こえてきた。
「小春、体調はどうだ?」
「おかげさまでゆっくりできました」
小春が椅子に座ると、その横にロイも腰を下ろした。しかしロイはなかなか話しだそうとしなかった。
言いにくいことなのだろう。
口を開こうとしては閉じてを繰り返すロイを見て、小春から口を開いた。
「ロイ様は、半分吸血鬼だったんですね」
ロイは一瞬表情を暗くしたが、観念したように頷いた。
「そうだ」
そして申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまない」
「そんな!謝る必要なんてありませんよ!それに、隠す理由も分かりますし」
落ち込むロイを慰めようと、小春は話し始めた。
「ロイ様。私はロイ様に悪鬼から助けていただきました。あの時から気持ちは固まっているんです」
「小春」
「私、ロイ様のそばにいます。吸血鬼だろうと、あやかしだろうと、人間だろうと関係ありません」
そして小春は優しく微笑んだ。
「それに私も妖怪姫と呼ばれていたんですよ」
「妖怪姫と半吸血鬼か……俺たちはお似合いなのかもな」
「え」
お似合いという言葉に小春は顔を真っ赤にした。最初はロイはきょとんとしていたが、自分が言った言葉に「あ」と言ってロイまで顔を赤くした。
そうしてしばらく二人して照れあった。
「お邪魔して申し訳ありませんが、よろしいでしょうか、二人とも」
ジェームズは深いため息をついた。小春が部屋に入ってくる前からずっと部屋の中にいたらしい。
その事をすっかり忘れていたロイと、全く気が付かなかった小春。
二人とも顔を真っ赤にして黙り込んだ。
そんな二人を見て、ジェームズは再び深いため息をついた。
「初々しくて微笑ましいのですが、このままでは話が進みません。小春様はどこまで半吸血鬼のことを学ばれましたか?」
事務的に話を進めようとするジェームズに、小春は慌てて答えた。
「い、いえ!吸血鬼のことは聞きましたが半吸血鬼のことはまだ……」
「そうだろうな。半吸血鬼は少ないから」
まだ少し耳が赤いロイが頷いた。そしてようやく覚悟が決まったようで、ロイが語り始めた。
「俺は吸血鬼の母親とバンパイヤハンターの父親の間に生まれたんだ。両親は吸血鬼と人間の共存を望んでいたんだが、吸血鬼に襲われて俺が十歳の時に亡くなった。もとよりバンパイヤハンターだったアスター伯爵家は短命な者が多くてな。若くして爵位を継ぐことは珍しくはなかったんだ。まあ色々苦労はしたがな」
「そんな事情があったんですね」
「半吸血鬼は、血を飲めば吸血鬼のような力を手に入れられる。けれど血を飲まず人間と同じように過ごせば吸血鬼のような力は発揮できないんだ」
「ではロイ様は」
「俺は血を飲んでいない」
「だが完全に飲まないということはできないんだ」
「え。では今はどうしているのですか?」
ロイはポケットから小さな箱を取り出した。蓋を開けるとそこには白い錠剤がたくさん入っていた。
「ブラッドタブレットという薬を飲んでる。血と同じ成分で出来ているんだ」
「しかしそれもその場しのぎにしかなりません」
小春は急にロイのことが心配になった。錠剤がその場しのぎにしかならないのなら、ロイはこれからどうなってしまうのだろうか。
その時、小春は妙案を思いついて笑顔で答えた。
「あの、ロイ様が私の血を飲めば良いのではありませんか?そうすれば強大な力を得ることもできるんじゃないですか?」
「嫌だ」
しかしロイは即答で拒否した。ロイの答えにジェームズは思わずため息をついた。
小春はショックを受けた。まさかこんなにあっさり断られるとは。しかしロイのことを想うと、小春もここで引き下がるわけにはいかない。
「ロイ様が苦しむくらいなら私はこの身を捧げますっ!私を食べてくださいっ!」
小春は立ち上がってそう叫んだ。いつも大人しい小春の叫びにロイは目を丸くした。しかし小春の「私を食べて」という言葉に、みるみるロイの顔が赤くなっていく。口をぱくぱくさせ、何かを堪えるような表情をしている。
そんなロイに、小春は潔く迫っていく。
「さあ!」
「い、嫌だ!絶対に食べないっ!!」
迫られたロイは、焦って拒否した。顔だけでなく耳や手まで真っ赤になってしまっている。
じりじりと距離を取り合う二人を見て、ジェームズが再びため息をついた。
「と、とにかく!半吸血鬼の話はこれで終わりだ」
そう言ってロイは強制的に話に区切りをつけた。しかし小春はまだ納得がいかない様子でむくれていた。
ロイは咳払いして仕切り直した。
「それよりも急な話だが披露宴を開くことにした」
「披露宴ですか?」
「俺と小春の結婚を大々的に披露する。その披露宴であの吸血鬼を誘き寄せる」
確かに多くの人が住む都心に吸血鬼が潜んでいるなら早めに解決してしまいたい。しかしリカルドがそう簡単に出てくるとも思えなかった。
「吸血鬼は来るでしょうか?また隠れる可能性もあると思うんですが」
「あの吸血鬼には協力者がいる」
「え!」
秋穂以外にも協力者がいたなんて思いもしなかった。小春は秋穂の変わり様を思い出してゾッとした。リカルドに執着する秋穂の姿はどう見ても異常だったが、リカルドのためなら何でもする勢いがあった。あのような協力者が他にもいるなんて想像するだけで恐ろしい。
ロイは少し言い出しにくそうに目を伏せた。
「小春の血の情報を知っている人間は限られている。間違いない」
「そんな」
小春は嫌な予感がした。それは小春の血が特殊であると知っている人物、つまり小春の知っている人間が協力者と言っているようなものだ。
「その協力者の手を借りて、披露宴で吸血鬼が小春を狙って来るのは間違いない」
披露宴は夜に開催される。吸血鬼にとっては絶好の時間帯だ。
協力者の手を借りれば人混みに紛れて簡単に小春に近付くこともできる。この機会に小春に接近してこないとは考えにくい。
「この大都会で被害者が出る前に捕まえてしまわねば」
「分かりました」
小春は頷いた。吸血鬼に潜られてはなかなか見つける事も難しくなる。こちらとしても絶好の機会なのだ。
「私、今度こそ頑張ります」
ここで失敗する訳にはいかない、と小春は自然と拳に力が入る。
そんなやる気満々の小春を見て、ロイは顔を綻ばせた。そして小春の頭を優しく撫でた。
「頑張りすぎるなよ」
何気ないロイの言葉が小春の心に染み渡る。小春も自然と笑顔になった。
「ありがとうございます」
リカルドがロイのことを「半分吸血鬼」と言っていたのが今でも脳裏に焼き付いている。あの時は何を言っているんだと思ったが、ロイの態度を見ていると嫌でも本当なんだとわかっていった。だがロイにどんな態度を取ればいいのかは分からない。
ーーロイ様。それでも私は……。
ロイが半分吸血鬼だったとしても、小春の気持ちは変わらない。悪鬼から小春を救い出してくれたあの日から、小春はずっとロイに惹かれていた。一緒に過ごせば過ごすほど、ロイを好きになっていく。
ーー私は貴方のそばにいたい。
今の関係がかりそめだと分かっていても、ロイが半分吸血鬼だとしても、小春のこの気持ちだけは変わらない。
あれから数時間後。身支度を整えた小春は執務室の前に来ていた。小春は大きく深呼吸して扉をノックした。すると部屋の中から「どうぞ」と声が聞こえてきた。
「小春、体調はどうだ?」
「おかげさまでゆっくりできました」
小春が椅子に座ると、その横にロイも腰を下ろした。しかしロイはなかなか話しだそうとしなかった。
言いにくいことなのだろう。
口を開こうとしては閉じてを繰り返すロイを見て、小春から口を開いた。
「ロイ様は、半分吸血鬼だったんですね」
ロイは一瞬表情を暗くしたが、観念したように頷いた。
「そうだ」
そして申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまない」
「そんな!謝る必要なんてありませんよ!それに、隠す理由も分かりますし」
落ち込むロイを慰めようと、小春は話し始めた。
「ロイ様。私はロイ様に悪鬼から助けていただきました。あの時から気持ちは固まっているんです」
「小春」
「私、ロイ様のそばにいます。吸血鬼だろうと、あやかしだろうと、人間だろうと関係ありません」
そして小春は優しく微笑んだ。
「それに私も妖怪姫と呼ばれていたんですよ」
「妖怪姫と半吸血鬼か……俺たちはお似合いなのかもな」
「え」
お似合いという言葉に小春は顔を真っ赤にした。最初はロイはきょとんとしていたが、自分が言った言葉に「あ」と言ってロイまで顔を赤くした。
そうしてしばらく二人して照れあった。
「お邪魔して申し訳ありませんが、よろしいでしょうか、二人とも」
ジェームズは深いため息をついた。小春が部屋に入ってくる前からずっと部屋の中にいたらしい。
その事をすっかり忘れていたロイと、全く気が付かなかった小春。
二人とも顔を真っ赤にして黙り込んだ。
そんな二人を見て、ジェームズは再び深いため息をついた。
「初々しくて微笑ましいのですが、このままでは話が進みません。小春様はどこまで半吸血鬼のことを学ばれましたか?」
事務的に話を進めようとするジェームズに、小春は慌てて答えた。
「い、いえ!吸血鬼のことは聞きましたが半吸血鬼のことはまだ……」
「そうだろうな。半吸血鬼は少ないから」
まだ少し耳が赤いロイが頷いた。そしてようやく覚悟が決まったようで、ロイが語り始めた。
「俺は吸血鬼の母親とバンパイヤハンターの父親の間に生まれたんだ。両親は吸血鬼と人間の共存を望んでいたんだが、吸血鬼に襲われて俺が十歳の時に亡くなった。もとよりバンパイヤハンターだったアスター伯爵家は短命な者が多くてな。若くして爵位を継ぐことは珍しくはなかったんだ。まあ色々苦労はしたがな」
「そんな事情があったんですね」
「半吸血鬼は、血を飲めば吸血鬼のような力を手に入れられる。けれど血を飲まず人間と同じように過ごせば吸血鬼のような力は発揮できないんだ」
「ではロイ様は」
「俺は血を飲んでいない」
「だが完全に飲まないということはできないんだ」
「え。では今はどうしているのですか?」
ロイはポケットから小さな箱を取り出した。蓋を開けるとそこには白い錠剤がたくさん入っていた。
「ブラッドタブレットという薬を飲んでる。血と同じ成分で出来ているんだ」
「しかしそれもその場しのぎにしかなりません」
小春は急にロイのことが心配になった。錠剤がその場しのぎにしかならないのなら、ロイはこれからどうなってしまうのだろうか。
その時、小春は妙案を思いついて笑顔で答えた。
「あの、ロイ様が私の血を飲めば良いのではありませんか?そうすれば強大な力を得ることもできるんじゃないですか?」
「嫌だ」
しかしロイは即答で拒否した。ロイの答えにジェームズは思わずため息をついた。
小春はショックを受けた。まさかこんなにあっさり断られるとは。しかしロイのことを想うと、小春もここで引き下がるわけにはいかない。
「ロイ様が苦しむくらいなら私はこの身を捧げますっ!私を食べてくださいっ!」
小春は立ち上がってそう叫んだ。いつも大人しい小春の叫びにロイは目を丸くした。しかし小春の「私を食べて」という言葉に、みるみるロイの顔が赤くなっていく。口をぱくぱくさせ、何かを堪えるような表情をしている。
そんなロイに、小春は潔く迫っていく。
「さあ!」
「い、嫌だ!絶対に食べないっ!!」
迫られたロイは、焦って拒否した。顔だけでなく耳や手まで真っ赤になってしまっている。
じりじりと距離を取り合う二人を見て、ジェームズが再びため息をついた。
「と、とにかく!半吸血鬼の話はこれで終わりだ」
そう言ってロイは強制的に話に区切りをつけた。しかし小春はまだ納得がいかない様子でむくれていた。
ロイは咳払いして仕切り直した。
「それよりも急な話だが披露宴を開くことにした」
「披露宴ですか?」
「俺と小春の結婚を大々的に披露する。その披露宴であの吸血鬼を誘き寄せる」
確かに多くの人が住む都心に吸血鬼が潜んでいるなら早めに解決してしまいたい。しかしリカルドがそう簡単に出てくるとも思えなかった。
「吸血鬼は来るでしょうか?また隠れる可能性もあると思うんですが」
「あの吸血鬼には協力者がいる」
「え!」
秋穂以外にも協力者がいたなんて思いもしなかった。小春は秋穂の変わり様を思い出してゾッとした。リカルドに執着する秋穂の姿はどう見ても異常だったが、リカルドのためなら何でもする勢いがあった。あのような協力者が他にもいるなんて想像するだけで恐ろしい。
ロイは少し言い出しにくそうに目を伏せた。
「小春の血の情報を知っている人間は限られている。間違いない」
「そんな」
小春は嫌な予感がした。それは小春の血が特殊であると知っている人物、つまり小春の知っている人間が協力者と言っているようなものだ。
「その協力者の手を借りて、披露宴で吸血鬼が小春を狙って来るのは間違いない」
披露宴は夜に開催される。吸血鬼にとっては絶好の時間帯だ。
協力者の手を借りれば人混みに紛れて簡単に小春に近付くこともできる。この機会に小春に接近してこないとは考えにくい。
「この大都会で被害者が出る前に捕まえてしまわねば」
「分かりました」
小春は頷いた。吸血鬼に潜られてはなかなか見つける事も難しくなる。こちらとしても絶好の機会なのだ。
「私、今度こそ頑張ります」
ここで失敗する訳にはいかない、と小春は自然と拳に力が入る。
そんなやる気満々の小春を見て、ロイは顔を綻ばせた。そして小春の頭を優しく撫でた。
「頑張りすぎるなよ」
何気ないロイの言葉が小春の心に染み渡る。小春も自然と笑顔になった。
「ありがとうございます」


