庭師に「面をあげよ。そなたは良い腕を持っている。このまま書院の庭をよく整えておけ」と氷室は命じた。赤ら顔の庭師は褒美の言葉に手をもみながら、顔を上げる。
「へへへ……旦那様、ありがとうごぜえます」
「今後も励め」
庭師はだらしなく笑う。
「今日の昼下がり、奥さまを拝見いたしやした。なんとまあ、べっぴんな。旦那様がほんとうらやましいかぎりです。奥さま好みのお花をそろえます……へへへ」
ピクリと氷室の眉が釣り上がる。
「庭のことだけ考えていろ」
氷室は、踵を返した。
書院に戻った氷室は、羽織を見ていた。整えられた布の感触を、指先で確かめる。ただ、静かに言った。
「一つめ」
それだけだった。羽織を衣服棚へしまう。衣服棚には、衣がいくえにも折り重なっている。――そこにはまだ何も書き加えられていないものばかりだ。氷室はその空白を見ていた。やがて、視線だけを落とした。
この空白を埋めるには、相当な心を費やす。――氷室は、そっと衣の表面を撫でた。
「へへへ……旦那様、ありがとうごぜえます」
「今後も励め」
庭師はだらしなく笑う。
「今日の昼下がり、奥さまを拝見いたしやした。なんとまあ、べっぴんな。旦那様がほんとうらやましいかぎりです。奥さま好みのお花をそろえます……へへへ」
ピクリと氷室の眉が釣り上がる。
「庭のことだけ考えていろ」
氷室は、踵を返した。
書院に戻った氷室は、羽織を見ていた。整えられた布の感触を、指先で確かめる。ただ、静かに言った。
「一つめ」
それだけだった。羽織を衣服棚へしまう。衣服棚には、衣がいくえにも折り重なっている。――そこにはまだ何も書き加えられていないものばかりだ。氷室はその空白を見ていた。やがて、視線だけを落とした。
この空白を埋めるには、相当な心を費やす。――氷室は、そっと衣の表面を撫でた。
