冷徹軍師は敗国姫を手放さない

 「浄玉(じょうぎょく)様、花供養(はなくよう)のお花を摘んで参りました」

 風花は、月命日に兄と対面した。剃髪し、袈裟を着た義彦……浄玉はやつれた顔でふりかえる。読経の途中、手元には経典(きょうてん)がある。焼香の香りが、本堂の中に漂い、二人を包みこんでいた。
 風花は竹籠に菜の花を摘んで、微笑んでいる。浄玉はそれを受け取ると、経典に目を落とした。そして、振り返らぬまま、妹に声をかける。

 「風花は……夫のことを恨んではいないのか」

 風花は、さみしげに笑う。

 「兄上……。もう終わったことなのです。戦争も、高津も、私達も……全て、終わっていたのです」
 「風花、お前は、本当に幸せなのか?」

 しばらくの静寂が本堂に流れる。

 「幸せですわ」

 彼女の返答を聞くなり、浄玉は何も言わなかった。沈黙した後、浄玉は読経を再開する。風花はその背後に正座し、手を合わせる。――全て終わっていたのだ、高津の国も一族も。それなのになぜ、心は当時のことを思い起こさせるのか。人はなぜ考えてもしかたのないことを考えては、心は過去に囚われてしまうのか。

 昨年の冬、東雲国は飛鳥国を滅ばした。時代は、東雲国に傾きつつある。今や東雲国の領土は過去最大となり、群雄割拠した諸国は統一されつつある。
 修羅道(しゅらどう)に堕ちたかのように、戦争を続ける東雲国は、更に西方へ領土を伸ばそうとしていた――。