冷徹軍師は敗国姫を手放さない

 氷室は、ゆっくりと本堂から石段を降りてきた。もうすでに高天原ら飛鳥国の兵士たちの生命線は断たれている。異様な緊張感の中、氷室は平然とした顔で、高天原と相対した。

 「……計中計(けいちゅうけい)。高天原雅経、お前がよく知っているやり方だ」

 羞恥で顔を真っ赤にさせながら、高天原は怒りで肩を震わせる。ふざけるな――と口走るより前に、氷室は太刀を高天原の頭へ向けた。

 「腑抜けはお前だ、高天原雅経。――皆の者、高天原雅経及び飛鳥国の者たちを一網打尽にせよ!!」

 完全に包囲された飛鳥国の兵士たちが崩れ落ちるには時間はかからなかった。声を上げながら兵士たちは入り乱れる。氷室の頭には布陣図の盤面が浮かんでいた。計中計。策略の中に、また策略がある。義彦の駒、それを取り囲む氷室の駒、またそれを取り囲む高天原の駒、その全てを完全に包囲する東雲国の軍――。全ての駒を掌握し、一息にして勝敗を決める戦略。氷室は目を伏せながら、高天原の駒が崩れ落ちるのを見た。音を立てて、飛鳥国の兵士の駒が散っていく。

 「忠頼様……!」

 氷室は、風花へ歩み寄り、そっと肩を抱いた。小刻みに震える彼女は、氷室の顔を見ると安堵したかのように息をつく。風花はポロポロと涙をこぼしていた。氷室はその涙を手袋をした指先でぬぐう。――その時、大きな歓声が上がった。敵の首級を上げた大歓声が、境内に響き渡っていた。氷室は、風花の目を袖で覆う。危険な策略に巻き込ませたことを詫びるように、彼女を優しく抱き寄せた。

 「戦は終わった」