高天原が根城にしている寺院は、都近郊にあった。山あいに建つ寺院は、戦の世の外側にあるような静けさをまとっていた。緩やかな石段を登りきると、黒瓦の本堂が姿を現す。長い年月に磨かれた木の柱は深い色を帯び、軒先には風鈴のような小さな飾りが揺れていた。境内には古い杉が立ち並ぶ。本堂の奥からは、僧の読経が低く響く。その声は風に溶けるように広がり、遠くの山へと消えていく。
元々は飛鳥の国の一つだった、高津・ 東雲らの諸国。戦乱の世になり分かれたのだ。寺院の文化は飛鳥のものを引き継いでおり、僧侶に関しては飛鳥出身の者の行き来が現在でも許されている。
頭巾で顔を隠し、袈裟を着た高天原の冷酷な横顔が灯火に映し出される。
高天原は、扇で床を叩いた。
「……で。オトシマエ、どうつけるん?」
義彦は平伏する。
「申し訳ありませぬ!! しかし、高天原殿、どうか我らを見捨てず機会をくださいませ!!」
義彦の背後に数十の高津の残党たち。
いっせいに頭を床につける。
高天原と義彦らは、寺院の広い地下倉庫に滞在している。
「はぁ~あのなぁ、戦は根性でどうにかなるもんやない。なんかこう……勝算の見込みはあるんか?」
義彦は顔を上げる。
「あります!」
「なんやー? まーた兵站破壊やないやろなー?」
ぐっと義彦は拳を握りしめる。ずっと高天原に隠していた最後の切り札。ためらないながら、義彦は口を開いた。
「……我が妹が、氷室忠頼の妻になっております」
「ほお? あの天下の軍師の……それは初耳やったわ」
「先日、妹にこっそり会い、毒殺を命じました」
高天原は扇で口元を隠す。
「あの軍師が、そんなあっさりとやられるとは思わんなぁ〜…」
「しかも、妹はたった一人で月命日の供養をしにここへ来ております。偶然、本堂で見かけました」
ニヤニヤと笑い、高天原は扇を開いた。
「おもろいこと聞いたわ」
義彦は再び平伏する。
「その妹、使えるやん」
――風花に、黒い影が忍び寄っていた。
元々は飛鳥の国の一つだった、高津・ 東雲らの諸国。戦乱の世になり分かれたのだ。寺院の文化は飛鳥のものを引き継いでおり、僧侶に関しては飛鳥出身の者の行き来が現在でも許されている。
頭巾で顔を隠し、袈裟を着た高天原の冷酷な横顔が灯火に映し出される。
高天原は、扇で床を叩いた。
「……で。オトシマエ、どうつけるん?」
義彦は平伏する。
「申し訳ありませぬ!! しかし、高天原殿、どうか我らを見捨てず機会をくださいませ!!」
義彦の背後に数十の高津の残党たち。
いっせいに頭を床につける。
高天原と義彦らは、寺院の広い地下倉庫に滞在している。
「はぁ~あのなぁ、戦は根性でどうにかなるもんやない。なんかこう……勝算の見込みはあるんか?」
義彦は顔を上げる。
「あります!」
「なんやー? まーた兵站破壊やないやろなー?」
ぐっと義彦は拳を握りしめる。ずっと高天原に隠していた最後の切り札。ためらないながら、義彦は口を開いた。
「……我が妹が、氷室忠頼の妻になっております」
「ほお? あの天下の軍師の……それは初耳やったわ」
「先日、妹にこっそり会い、毒殺を命じました」
高天原は扇で口元を隠す。
「あの軍師が、そんなあっさりとやられるとは思わんなぁ〜…」
「しかも、妹はたった一人で月命日の供養をしにここへ来ております。偶然、本堂で見かけました」
ニヤニヤと笑い、高天原は扇を開いた。
「おもろいこと聞いたわ」
義彦は再び平伏する。
「その妹、使えるやん」
――風花に、黒い影が忍び寄っていた。
