冷徹軍師は敗国姫を手放さない

 黒装束の兵士たちは火矢を一斉に構え、弓矢をひきしぼった。
 
 「放て!!」

 義彦の号令と共に、火矢が夜空を裂く。燃え盛る矢は屋根へ突き刺さり、瞬く間に炎が広がっていく。

 「皆、刀を構えろ!! 逃げ出した刀鍛冶(かたなかじ)は一人残らず捕らよ!!」

 ぎらりと白刃が月光を反射する。
 黒装束の群れは、燃え上がる村へ雪崩れ込んだ。義彦もまた、自ら刀を抜き放ち、炎の中へ駆け込む。
 その様子を、高天原は安全な小高い丘の上から眺めていた。護衛たちに囲まれながら、彼は大きくため息をつく。

 「ほーら、言わんこっちゃない」

 扇の先を、ゆるりと村へ向ける。

 「皆、見なはれ。北のイノシシ武者が、罠にかかる様子を」

 飛鳥の武士たちは、その先を見つめた。――燃え盛る家屋から現れたのは、刀鍛冶ではない。
 武装した兵士たちだった。

 「北のイノシシより、東のオオカミのほうが、ほんま賢かったんやね。まぁ、どっちも野蛮人やけど」

 高天原は鼻先を押さえ、薄く笑う。

 「お前らの考えなんざ、バレバレなんだよ!!」

 石流は黒装束の兵を、一文字に斬り捨てた。

 「おおい!! 皆!! この不気味なカラスどもを皆殺しにしろ!!」

 兵たちを率いながら、石流は炎の中で二刀を振るう。
 黒装束の兵士たちは予想外の展開に混乱し、行き場を失っていた。
 燃え広がる火の手が、彼ら自身の退路を塞いでいく。
 義彦は舌打ちし、身を翻した。

 「おいテメー!! 逃げんな!!」

 石流が追おうとした瞬間。――高天原の放った矢が、鋭く地面へ突き刺さる。黒装束の兵たちも一斉に石流へ斬りかかった。

 「チッ……逃がしたか」

 炎と怒号の中、義彦はそのまま闇へ敗走していった。