冷徹軍師は敗国姫を手放さない


 「高津国の残党の仕業かもしれぬのう」

 禍津は脇息にもたれかかりながら、居並ぶ家臣たちを見た。

 「仇討ちにやって来てるというわけじゃ」

 家臣たちは、重い空気に包まれる。
 残党とはいえ、かなりの手練だ。やっかいな存在であることには間違いない。
 氷室は「お言葉ですが」と短く言う。

 「それは早計かと」

 頭を低くしながら、老将軍を見据えた。

 「高津国の武人たちの全滅は首実検(くびじっけん)で確認しました。ここまでの戦術、弓術から推測すると、新たな敵の仕業かと考えられるかと」
 「では、何と考える? 軍師よ」

 禍津は献上された根付に目をやる。

 「これは、私たちが冬に戦をしかけるはずの――西の国・飛鳥(あすか)の国の者の仕業です」

 石流をはじめ、家臣たちは驚嘆の声を上げた。

 「では、なんで……高津の根付があそこに落ちていた?」
 「そうだ、それがおかしい」
 「飛鳥の落とし物が高津なんて変な話だ」

 氷室は息をつく。

 「――敵は一つではないのです」

 その言葉に、広間が静まり返った。禍津はゆっくりと目を細める。

 「……高津の残党と、飛鳥国が手を組んでいる、と」

 氷室は静かに首を縦に振った。