冷徹軍師は敗国姫を手放さない

 「あ〜こりゃひどいねえ」

 石流は鼻をつまむと、昨晩の事件現場から退いた。その横には、氷室が立っている。

 「全員、即死か」

 氷室が屍の間を歩く。

 「みんな綺麗に急所を一矢にして射抜かれてる、こりゃーただの賊じゃないね」

 石流は夏の暑さに汗を流しながら、うんざりした様子でしゃがみ込んだ。氷室は袖で鼻を覆う。

 「……弓術を修めた者のやり方だ」
 「城の警固衆が、この有様かよ」

 石流は赤茶の髪をかき上げ、ため息をつく。

 「冬には隣国とまた戦だってのに、面倒増やしやがって」

 氷室は、腐敗の進み始めた死体群から視線を外した。

 「袋小路へ誘い込み、一網打尽……」

 その手際に、氷室の脳裏には一つの戦術が浮かぶ。

 「マジで、お前みたいな奴がいそうだな」

 石流がぼやいた、その時。

 「……これは」

 氷室の視線が、血溜まりの中で光るものを捉えた。
 従者に命じ、拾わせる。

 「根付(ねつけ)か?」

 石には見慣れぬ文様が刻まれていた。

 「なんだ、この文字みてえなの」

 氷室は眉をひそめる。見覚えがあった。

 「……高津国の伝統模様だ」

 かつて商人として潜伏した折、幾度も目にした意匠。氷室と石流は、無言で顔を見合わせた。