冷徹軍師は敗国姫を手放さない

 黒い布で顔を覆った男たちは、闇夜の中を駆け抜けていた。それは、まるで夜を駆ける(カラス)のようだった。追っ手の放つ矢をかわし、東雲国の裏路地へ滑り込む。

 「見つけたぞ!」

 数十人の警固衆(けいごしゅう)が白刃をきらめかせ、逃走者たちを取り囲んだ。四人の男たちは、覆面の奥で静かに視線を交わす。背中合わせのまま、袋小路へ追い込まれていた。

 「お前たち、何者だ!」
 「城付近で何をしていた!」

 警固衆の長は鼻を鳴らした。

 「ひとまず生け捕りにしろ。尋問すれば口も割れよう」

 縄を取り出し、一歩踏み出した――その瞬間だった。
 どさり、と。
 長の身体が崩れ落ちる。

 「……え?」

 胸から鮮血が噴き出した。弓矢が一本刺さっている。警固衆たちが目を見開く。次の瞬間、頭上から無数の矢が降り注いだ。

 「伏兵だ!!」

 屋根の上。黒装束の男たちが弓を引き絞っていた。

 「罠か――!」

 悲鳴とともに、警固衆たちは次々と倒れていった。そこへ、石畳を駆ける足音が響く。

 「いたぞ!! 逃がすな!!」

 新たに援軍としてやって来た警固衆の兵たちが路地へ雪崩れ込んだ。槍を構え、怒号を上げる。だが、その瞬間だった。
 闇の中から矢が飛ぶ。兵の喉を射抜いた矢は、そのまま背後の男へ突き刺さった。

 「ぐぁっ……!!」
 「弓だ!! 屋根の上だ!!」

 混乱した警固衆へ、さらに別の影が飛び込んだ。闇夜に紛れて気づかなかったが、目の前には黒装束の男たちがいる。抜き放たれた太刀が、月光を一瞬だけ反射する。

 「なっ――!?」

 兵が槍を向けるより早く、首筋に刃が走った。血飛沫が闇へ散る。黒装束の男たちは止まらない。
 狭い路地では数の利は生きない。警固衆は味方同士でぶつかり合い、隊列を崩していく。その頭上から、容赦なく矢が降り注いだ。

 「ひるむな!!」
 「囲め!! 囲――」

 叫び声は途中で途切れる。屋根の上の射手が、額を正確に射抜いたのだ。
 黒装束の男たちは、一言も発しない。ただ、淡々と殺していく。
 血に濡れた石畳の上で、警固衆の松明(たいまつ)が落ちている。
 黒装束の男たちは、倒れた兵たちを一瞥した後、再び夜の闇へ溶け込むように姿を消した。