冷徹軍師は敗国姫を手放さない

 城へ続く大通りには店が軒を連ね、商人たちの威勢の良い声が絶え間なく飛び交っている。

 「さあさあ、異国仕込みの反物だ!」
 「焼きたてだよ、団子はいらねえか!」
 「今年の新茶が入ったぞ!」

 荷を背負った行商人が忙しなく行き交い、荷車の車輪が石畳を軋ませる。味噌や干物の匂いに混じって、香木や薬草の香りまで漂っていた。
 呉服商の店先には、色鮮やかな小袖が幾重にも吊るされている。裕福な町人の娘たちが布地を指でなぞりながら、楽しげに笑い合っていた。
 一方、米問屋の前では番頭が算盤を弾き、米俵を運ぶ男たちへ怒鳴り声を飛ばしている。
 川沿いの市場では魚商人たちが朝獲れの魚を並べ、威勢よく値を張り上げていた。桶の中では銀色の魚が跳ね、水しぶきが陽光を受けてきらめく。

 「はあ〜〜俺もあの姫様が欲しかったなぁ〜」

 下級武士たちは団子を食べながら歩いている。人々が行き交う大通りを、楽しげに笑いながら通っていった。

 「あの姫って、北の高津国のお姫様のことか?」
 「そーだよ! 肌は透き通るような雪みたいで、目は海のように青いらしいぜ」
 「お前、見たことあんのかよ」

 団子を頬張りながら、首を横にふる。

 「とにかくどえらい美人なんだってよ! あ~いいな〜一目見て見たいな〜」

 もう一人の男は伸びかけた髭を撫でた。

 「高津の姫さんは、でもあの男色家がもらったんだろ?」

 団子を喉に詰まらせながら「それよ!!」と声を絞り出した。

 「なんであんな血も涙もない軍師なんかにさ。もったいないよな〜〜! 美人を腐らせるだけだろ? せっかくの絶世の美女、たくさん楽しまなきゃ損だろ?」

 また一人の男はだらしなく笑みを浮かべる。

 「上のお方たちも、まだ狙ってるそうだぜ。あの男色家にはもったいないってな」
 「そりゃそうだ……あ」

 言いかけて、ポロリと団子が落ちる。男たちの視線が、転がる団子を追った。――団子は上質な草履の元で止まった。

 「「……軍師殿!!」」

 全員、顔面から血の気が引いた。