冷徹軍師は敗国姫を手放さない

 ――頭で考えすぎじゃ、氷室。戦は算術ではないぞ。
 灯火の下で、軍師の端正な横顔が浮かび上がっていた。

 「戦は算術ではない、か……」

 書斎の文机に布陣図を広げて、駒を何度も動かしている。
 その長い指先が、すっと思わぬ方向へ向いた。

 ――風花が刺繍を施した羽織が飾られていた。

 再び布陣図に目を落とす。
 そして、腕を組んだ。

 一つ、情報を遮断、敵を孤立させる。

 手を駒にのばす。

 二つ、敵に要求をし、その要求は次第に大きくなる。

 駒を手で弄ぶ。

 三つ、要求の罰と報酬を与え、敵の心を縛る。

 氷室は駒を指先ではじいた。

 最後――、敵に逃げ道はない。

 駒は音もなく落ちた。羽織の下へ、その駒は転がっていった。
 冷えた月の光は障子の隙間から差し込み、布陣図に影を落とした。
 軍師は目を見開き、深く閉じる。
 灯火は音を立てて燃えがっていた。