冷徹軍師は敗国姫を手放さない

 「こうだ」

 氷室は器用な手つきで糸を抜く。すばやく針を刺し、抜く。くりかえし産み出されるのは精緻な文様。

 横に並んで座る風花は、手渡された針を持ちながら「難しい……」と独り()ちた。

 「私と同じように手を動かすのだ」
 「は、はい……」

 何度も挑戦するが、彼女の手は思わぬ方向へ動く。

 「貸せ」

 氷室の手のひらが風花の手を包み込む。細長い指先はひんやりと冷たい。

 (触れた……)

 彼女の耳元に、彼の顔がある。吐息が耳に触れた。風花の肩はビクリと震える――心臓が跳ね上がった。

 「もう一度」

 落ち着いた低い声がささやく。

 (しゅ、集中できない)

 風花は氷室の動作を真似、糸を抜く。――ほんの少しだけ氷室のような動きになってきた。

 「そうだ」

 細長い軍師の指先がパッと離れ、彼は風花の目の前に座る。

 「それを、くりかえせ」

 ただ教えているだけで眉一つ動かない氷室に、ほんの少し顔を赤らめ、風花は俯いた。

 (なんか……恥ずかしい)

 袖口で顔を覆い、そらした。