いってきます、を言って、家のドアを後ろ手に閉めた。
朝だというのに焼けつくような日差しだ。九月に入ったというのに、まだ真夏同然だ。近くの花壇では、ピンクの花が咲き乱れている。近所の小学生が植えているらしく、『コスモス』と拙い字で書かれた小さな立札があった。
小型犬を散歩するおじさんとすれ違って、お互い軽く会釈をする。名前も知らないくらいの人だが、毎朝会っているとなんとなく親しい気がしてくるから不思議だ。
通学路を歩きながら、俺は一枚のプリントを取り出した。
【チケット係
2年B組 高橋直人(たかはしなおと)】
皆の名前がずらりと並んでいる中で、俺の名前は下から二番目だ。まあ、それも合っていると思う。プリントをバッグにしまった頃に「おはようございます」と声を掛けられた。振り返ると、立っていたのは山本だった。
「おはよ、山本も早いな」
「そもそも、早起きは身体に良いと科学的に証明されているんですよ。その証拠に、僕も皆勤賞であるわけで――」
相変わらずのまどろっこしい口調で喋りながら、山本は眼鏡を持ち上げた。優等生キャラも板についてきている。
「そういえば高橋くん、チケット係だと聞きましたが」
「ああ。まあ受付でチケット渡すだけだよ」
「それも大事な役割ですよ。まあ僕は最後に火の玉を吊るす役ですがね」
山本は自慢げにふんと笑った。確かに大役ではある。
俺たちのクラスは、文化祭でお化け屋敷をやることになった。教室を使ったお化け屋敷なのでこぢんまりとしたものだが、凝った衣装や小道具もできあがっているそうなので、なかなかクオリティの高い出し物になりそうだった。
「文化祭で火の玉吊るすのはいいが、生徒会のほうでは何かやらないのか」
「生徒会では、文化祭中の校内アナウンスやら落とし物管理をしていますね。あとはステージ進行もしています。まあ僕はパンフレットやポスター作りがメインなので、文化祭当日は手が空きますよ。ゆえにこうして……」
まだまだ長い話が続きそうだったので、半分聞き流す。何故こんなにぺらぺらと喋れるのだろう。山本は気持ち良さそうに「ポスターの下書きは生徒会室に」と言ったが、それきり黙り込んでしまった。
「……どうした、山本」
「いや……生徒会室。僕、なんか、あの部屋行きたくないんだよな」
山本は不思議そうに首を傾げたが、まあいいかと頷いていた。
朝だというのに焼けつくような日差しだ。九月に入ったというのに、まだ真夏同然だ。近くの花壇では、ピンクの花が咲き乱れている。近所の小学生が植えているらしく、『コスモス』と拙い字で書かれた小さな立札があった。
小型犬を散歩するおじさんとすれ違って、お互い軽く会釈をする。名前も知らないくらいの人だが、毎朝会っているとなんとなく親しい気がしてくるから不思議だ。
通学路を歩きながら、俺は一枚のプリントを取り出した。
【チケット係
2年B組 高橋直人(たかはしなおと)】
皆の名前がずらりと並んでいる中で、俺の名前は下から二番目だ。まあ、それも合っていると思う。プリントをバッグにしまった頃に「おはようございます」と声を掛けられた。振り返ると、立っていたのは山本だった。
「おはよ、山本も早いな」
「そもそも、早起きは身体に良いと科学的に証明されているんですよ。その証拠に、僕も皆勤賞であるわけで――」
相変わらずのまどろっこしい口調で喋りながら、山本は眼鏡を持ち上げた。優等生キャラも板についてきている。
「そういえば高橋くん、チケット係だと聞きましたが」
「ああ。まあ受付でチケット渡すだけだよ」
「それも大事な役割ですよ。まあ僕は最後に火の玉を吊るす役ですがね」
山本は自慢げにふんと笑った。確かに大役ではある。
俺たちのクラスは、文化祭でお化け屋敷をやることになった。教室を使ったお化け屋敷なのでこぢんまりとしたものだが、凝った衣装や小道具もできあがっているそうなので、なかなかクオリティの高い出し物になりそうだった。
「文化祭で火の玉吊るすのはいいが、生徒会のほうでは何かやらないのか」
「生徒会では、文化祭中の校内アナウンスやら落とし物管理をしていますね。あとはステージ進行もしています。まあ僕はパンフレットやポスター作りがメインなので、文化祭当日は手が空きますよ。ゆえにこうして……」
まだまだ長い話が続きそうだったので、半分聞き流す。何故こんなにぺらぺらと喋れるのだろう。山本は気持ち良さそうに「ポスターの下書きは生徒会室に」と言ったが、それきり黙り込んでしまった。
「……どうした、山本」
「いや……生徒会室。僕、なんか、あの部屋行きたくないんだよな」
山本は不思議そうに首を傾げたが、まあいいかと頷いていた。
