光に眩んで倒れそうになるが、踏ん張った。いくつもの電気が俺を照らしている。いや、これは体育館の照明ではない。スポットライトのまっすぐした光だ。
体育館には、たくさんの黒いものがひしめいていた。人ほどの大きさのものから、ネズミ程度の小さなもの。すべてが柔らかそうな丸い塊で、まるで黒いスライムのようだ。それらの塊が整列して体育館を埋め尽くしているので、黒く波打っているようにも見える。
その黒色たちが少し下の位置に見えるのは、俺が舞台に立っているからだろう。俺が「えっ」と声を漏らすと、何の合図だと思ったのか、塊たちがぶるぶると動いて、濁った鈴のような音を出した。もしかして拍手なのだろうか。被さるように、聞き慣れた調子はずれの拍手の音も聞こえてくる。これは恐らく、渉がカニの腕で拍手をしている音だろう。
「大英雄の子、ロメンナよ! ドラゴンを退治するというのか!」
振り返ると下手(しもて)の側に、渉が立っていた。ベストとシャツに皮のブーツを合わせたあれは、村長の格好なのだろう。呪いを受けていないロメンナが、皆に讃えられているときのシーンだ。
俺が呆然としていると、渉が「お前のセリフ」と小声で言った。
「……いかにも。この力で必ずドラゴンを討ち取って見せる!」
続きのセリフを言うと、渉がにんまりと笑った。
「期待しているぞ、大英雄の子よ!」
よく見れば舞台の上には、街を描いただろう書き割りの背景セットが並べられている。ベニヤに描かれた中世の街並みは、お世辞にも上手いとは言えないが、ちゃんと街とは分かるクオリティで感心した。そういえば渉は、美術部だった。
同時に舞台上を、光る小魚の群れが横切った。村長役の渉が「おお、これは災いの小魚!」と大袈裟に声を張ったが、そんなものはセリフになかったはずだ。
「さあロメンナ、旅に出るのじゃ!」
カラフルなスポットライトが、こちらを向く。どういう仕組みなのだろう。照明器具は宙に浮いて、あちこちから俺を照らしている。
だが今は、そんなことはどうでも良くなるくらいに高揚していた。
幕が開いた。
今、『ロメンナ物語』が、はじまろうとしているのだ。
俺は拳を突き上げて、練習通りのセリフを叫んだ。
「ああ、ここから俺の旅が始まるのだ!」
体育館には、たくさんの黒いものがひしめいていた。人ほどの大きさのものから、ネズミ程度の小さなもの。すべてが柔らかそうな丸い塊で、まるで黒いスライムのようだ。それらの塊が整列して体育館を埋め尽くしているので、黒く波打っているようにも見える。
その黒色たちが少し下の位置に見えるのは、俺が舞台に立っているからだろう。俺が「えっ」と声を漏らすと、何の合図だと思ったのか、塊たちがぶるぶると動いて、濁った鈴のような音を出した。もしかして拍手なのだろうか。被さるように、聞き慣れた調子はずれの拍手の音も聞こえてくる。これは恐らく、渉がカニの腕で拍手をしている音だろう。
「大英雄の子、ロメンナよ! ドラゴンを退治するというのか!」
振り返ると下手(しもて)の側に、渉が立っていた。ベストとシャツに皮のブーツを合わせたあれは、村長の格好なのだろう。呪いを受けていないロメンナが、皆に讃えられているときのシーンだ。
俺が呆然としていると、渉が「お前のセリフ」と小声で言った。
「……いかにも。この力で必ずドラゴンを討ち取って見せる!」
続きのセリフを言うと、渉がにんまりと笑った。
「期待しているぞ、大英雄の子よ!」
よく見れば舞台の上には、街を描いただろう書き割りの背景セットが並べられている。ベニヤに描かれた中世の街並みは、お世辞にも上手いとは言えないが、ちゃんと街とは分かるクオリティで感心した。そういえば渉は、美術部だった。
同時に舞台上を、光る小魚の群れが横切った。村長役の渉が「おお、これは災いの小魚!」と大袈裟に声を張ったが、そんなものはセリフになかったはずだ。
「さあロメンナ、旅に出るのじゃ!」
カラフルなスポットライトが、こちらを向く。どういう仕組みなのだろう。照明器具は宙に浮いて、あちこちから俺を照らしている。
だが今は、そんなことはどうでも良くなるくらいに高揚していた。
幕が開いた。
今、『ロメンナ物語』が、はじまろうとしているのだ。
俺は拳を突き上げて、練習通りのセリフを叫んだ。
「ああ、ここから俺の旅が始まるのだ!」
