あれから、どれくらい目を閉じていただろうか。俺自身も疲れていたようで、目を瞑ってからの記憶がないくらい早い入眠だった。仰向けのままで薄く目を開けてみると室内は薄暗く、ロウソクの明かりは消えてしまったようだった。もうすっかり夜にもなったのだろう。
疲労に任せて転がっていると、何かが這うような音が聞こえた。
ずるり、ずるり。
巨大なナメクジが這っているような、粘度のある水音。
何かがこちらに近づいてきている。
身動ぐこともできずに硬直していると、耳元に冷たいものが触れた。ぬるりとしたそれが、耳の裏を通って、俺の頬を撫でつける。胴体の長いナメクジのようなものかと思ったが、突起がついているようで凸凹したものが肌を擽る。
得体の知れない恐怖に背筋が粟立った。
触手のようなそれを掴もうと手を伸ばした瞬間、そのぬめりが俺のうなじを滑って、ぐるりと首に巻き付いた。ぬるついた感触に、悲鳴をあげそうになる。
その巻き付きに力が込もっていき、俺の気道を塞いでいく。
意思を持って、俺の首を絞めている。
――殺される。
死の恐怖に眩暈がして、身体のコントロールがきかなくなった。めちゃくちゃに手足を動かして暴れると、さらにそれは力強く首を絞めつけた。喉奥からぐっと、妙な音が漏れる。部屋にあるものを蹴飛ばして、殴って、身体をばたつかせていると、息苦しさを一歩通り越したのか意識が遠のいてきた。
――渉。
場違いにも思い返していたのは、渉のことだった。熱が出ていたが大丈夫なのだろうか。そろそろ腹が減ってきたんじゃないか。薬も忘れず飲んでいればいいが――
突然、首の絞めつけが緩んだ。一気に酸素を取り込んで、激しく咳き込んだ。触手のようなそれは、逃げるようにさっと引っ込んでいった。
殺されたと思ったが、実際に襲われていた時間は何十秒かのことだったのだろう。一度酸素を取り込むと思考がクリアになってきて、慌てて身体を起こした。首筋に触れると、汗とも違うぬるつきが残っていた。指で掬ってみると、生臭いような匂いまでして眉を顰める。
「……渉、大丈夫か」
掠れた声で呼ぶと、数秒のあとに「うん」と弱々しい返事があった。まさか渉まで襲われているのだろうかと、慌ててスマホを手繰り寄せる。ぬるついた何かが画面を擦るので、暗証番号の入力に何度か失敗した。そしてようやくスマホのライトで、部屋を照らした。
「今、変な生き物がいた。ナメクジみたいなやつで、俺の首を……」
渉は身体を起こして、布団の上に座り込んでいた。照らされた渉の影が、壁を撫でている。
「ごめん」
渉が腕を動かした。先ほど聞いた、ずるりと水気のある音が聞こえる。
「本当に、ごめん」
生々しいイカの脚が、光を弾いてぬるりと光っている。
渉が俯いた。イカの足の先だけが、意思を持ったようにくねっていた。
疲労に任せて転がっていると、何かが這うような音が聞こえた。
ずるり、ずるり。
巨大なナメクジが這っているような、粘度のある水音。
何かがこちらに近づいてきている。
身動ぐこともできずに硬直していると、耳元に冷たいものが触れた。ぬるりとしたそれが、耳の裏を通って、俺の頬を撫でつける。胴体の長いナメクジのようなものかと思ったが、突起がついているようで凸凹したものが肌を擽る。
得体の知れない恐怖に背筋が粟立った。
触手のようなそれを掴もうと手を伸ばした瞬間、そのぬめりが俺のうなじを滑って、ぐるりと首に巻き付いた。ぬるついた感触に、悲鳴をあげそうになる。
その巻き付きに力が込もっていき、俺の気道を塞いでいく。
意思を持って、俺の首を絞めている。
――殺される。
死の恐怖に眩暈がして、身体のコントロールがきかなくなった。めちゃくちゃに手足を動かして暴れると、さらにそれは力強く首を絞めつけた。喉奥からぐっと、妙な音が漏れる。部屋にあるものを蹴飛ばして、殴って、身体をばたつかせていると、息苦しさを一歩通り越したのか意識が遠のいてきた。
――渉。
場違いにも思い返していたのは、渉のことだった。熱が出ていたが大丈夫なのだろうか。そろそろ腹が減ってきたんじゃないか。薬も忘れず飲んでいればいいが――
突然、首の絞めつけが緩んだ。一気に酸素を取り込んで、激しく咳き込んだ。触手のようなそれは、逃げるようにさっと引っ込んでいった。
殺されたと思ったが、実際に襲われていた時間は何十秒かのことだったのだろう。一度酸素を取り込むと思考がクリアになってきて、慌てて身体を起こした。首筋に触れると、汗とも違うぬるつきが残っていた。指で掬ってみると、生臭いような匂いまでして眉を顰める。
「……渉、大丈夫か」
掠れた声で呼ぶと、数秒のあとに「うん」と弱々しい返事があった。まさか渉まで襲われているのだろうかと、慌ててスマホを手繰り寄せる。ぬるついた何かが画面を擦るので、暗証番号の入力に何度か失敗した。そしてようやくスマホのライトで、部屋を照らした。
「今、変な生き物がいた。ナメクジみたいなやつで、俺の首を……」
渉は身体を起こして、布団の上に座り込んでいた。照らされた渉の影が、壁を撫でている。
「ごめん」
渉が腕を動かした。先ほど聞いた、ずるりと水気のある音が聞こえる。
「本当に、ごめん」
生々しいイカの脚が、光を弾いてぬるりと光っている。
渉が俯いた。イカの足の先だけが、意思を持ったようにくねっていた。
