誤差、或いは。

 ロウソクの明かりは頼りないと思っていたが、目が慣れればそこまで見えないこともなかった。
「この暗さがまたいいんだよねー」
 渉が適当なことを言うのを無視して、すぐに使う荷物だけを用意する。とにかく腹が減っているから、何か食べるべきだろう。渉には何も期待していないので、俺は最低限の食糧や医薬品、電気ポット等々をトランクに詰めてきた。渉のほうはさっそく「パンツ足りないかも!」と騒いでいるので、本当にアテにしないで良かった。
 ロウソクのぼやけた明かりが、部屋を照らしている。点った火は時折揺れて、たまに青色に光った。炎色反応の実験みたいだ。
「直人っ、オレはもういつでも合宿始められる!」
「言ってもこの暗さじゃ台本も読めないだろ」
「あー、それもそっか。あ、スマホにテキスト入れたりとかしてないの?」
「してないよ。紙の台本があるのに」
 ちらっと自分のスマホに目を落とす。暗がりの中でも光源にはなっているが、見事に圏外のマークが表示されている。
 この時代に、まさかスマホの電波が届かない場所があるとは思わなかった。窓際に行けばぎりぎり電波が入るタイミングも入るというが、圏外も同然だろう。俺たちの持ってきたスマホは、目ざまし機能のある光る板と化している。
 暗い中で持ってきた菓子を貪り、なんとなく歯磨きを済ませた。
「まっ今日は疲れたし寝よ寝よ。布団っぽいものあるし」
「これ布団なのか?」
 何やら柔らかいものを踏んでいる。綿の柔らかさというよりも、何かの生き物を踏んでいるような感触だ。これが何かということも、俺自身が風呂に入っていないことも、気になることは多かったが、とにかく今日は、疲労が勝っていた。
 布団らしきものに包まって、身を横たえる。布団というよりも肉に包まったような心地だったが、もうどうでもよかった。
 夜になると、カエルの鳴き声が嫌というほど響いている。近くに水場でもあるのだろう。
 ともあれ俺たちの合宿は始まった。
 このよく分からない場所で。
 渉とふたりの合宿が。