植え込みから溢れた茂みは道に張り出して、通学路の一角を赤く染めている。ツツジの花の茂みだ。風が吹くたびに、赤色がばらばらに揺れている。五月が見頃なのだろう、朝の光に照らされた花たちは生き生きしているようだった。
見るともなしに眺めていると、ツツジたちが大きく震えて、一斉にわらった。比喩ではない。赤い茂みが一斉にケタケタ高く笑って揺れて、女性の笑い声のような音を響かせる。中学には女子がいたけど、こんな感じで笑っていた気がする。高い声で吠える小型犬を飼い主のおじさんが慌てて抱きかかえて、早足で隣を通り過ぎていった。
甲高い声で笑うツツジの茂みを横目に、学校に向かって歩を進める。いつもよりも15分早く家を出たので、月イチの全校朝礼の時間には充分間に合うだろう。徒歩で行ける高校を選んで、大正解だった。
電線の高さで、大きなクラゲがゆっくりと泳いでいった。陽光を受けたクラゲの笠がきらきら光っている。クラゲが空に浮かび出したのは、最近のことだ。基本的には高いところを泳いでいるが、触ると毒のある場合もあると専門家が何かの番組で注意をしていたっけ。
――まあ、そんなのは些末なことだ。
俺にとっての問題は、もっと大きく、目の前に聳え立っているのだ。
足を動かしながら、問題のプリントを取り出してみる。
【主役・ロメンナ
2年B組 高橋直人(たかはしなおと)】
しっかりと印刷された俺の名。そして、主役の文字。
後ろから泳いできた金魚が、プリントの端を掠って通っていった。丁寧にファイルに入れてバッグに戻す。何度見ても主役だ。たかが文化祭のクラス劇とは言え、しっかり練習してやりきらなくてはいけないだろう。
「そうだ、我が名はロメンナ。この呪いを……」
周りに聞こえない声量で、セリフの練習をする。少しでも時間があればセリフの練習をする、というのも日課になっていた。
「呪いがあっても戦いには参加できる……」
首を傾げて「参加できる」の言い方を変えて何度か繰り返してみる。ロメンナの心境を考えたら、ここはもっと違った演技があるはずだ。すすり泣くチューリップの花壇を横目に、いくつかのパターンを声に出してみる。
そこで人が通りかかったので、声を出さない口パクに切り替えた。こんなに練習していることをあいつに知られたら、口パクを指摘された上で、真面目だなと笑われてしまうだろう。面倒なことになるから、どうにかばれないで欲しい。そう祈っていたのだが。
見るともなしに眺めていると、ツツジたちが大きく震えて、一斉にわらった。比喩ではない。赤い茂みが一斉にケタケタ高く笑って揺れて、女性の笑い声のような音を響かせる。中学には女子がいたけど、こんな感じで笑っていた気がする。高い声で吠える小型犬を飼い主のおじさんが慌てて抱きかかえて、早足で隣を通り過ぎていった。
甲高い声で笑うツツジの茂みを横目に、学校に向かって歩を進める。いつもよりも15分早く家を出たので、月イチの全校朝礼の時間には充分間に合うだろう。徒歩で行ける高校を選んで、大正解だった。
電線の高さで、大きなクラゲがゆっくりと泳いでいった。陽光を受けたクラゲの笠がきらきら光っている。クラゲが空に浮かび出したのは、最近のことだ。基本的には高いところを泳いでいるが、触ると毒のある場合もあると専門家が何かの番組で注意をしていたっけ。
――まあ、そんなのは些末なことだ。
俺にとっての問題は、もっと大きく、目の前に聳え立っているのだ。
足を動かしながら、問題のプリントを取り出してみる。
【主役・ロメンナ
2年B組 高橋直人(たかはしなおと)】
しっかりと印刷された俺の名。そして、主役の文字。
後ろから泳いできた金魚が、プリントの端を掠って通っていった。丁寧にファイルに入れてバッグに戻す。何度見ても主役だ。たかが文化祭のクラス劇とは言え、しっかり練習してやりきらなくてはいけないだろう。
「そうだ、我が名はロメンナ。この呪いを……」
周りに聞こえない声量で、セリフの練習をする。少しでも時間があればセリフの練習をする、というのも日課になっていた。
「呪いがあっても戦いには参加できる……」
首を傾げて「参加できる」の言い方を変えて何度か繰り返してみる。ロメンナの心境を考えたら、ここはもっと違った演技があるはずだ。すすり泣くチューリップの花壇を横目に、いくつかのパターンを声に出してみる。
そこで人が通りかかったので、声を出さない口パクに切り替えた。こんなに練習していることをあいつに知られたら、口パクを指摘された上で、真面目だなと笑われてしまうだろう。面倒なことになるから、どうにかばれないで欲しい。そう祈っていたのだが。
