八月八日に死ぬ君へ



「だから、お米とかお酒とかを買いに行こう」
「…………」
 儀式までの日は毎日会う約束をしていた。待ち合わせ場所の公園で、僕は神倉くんに力説する。
「あと、お団子と……お魚とかもいいんだって。お供え物をたくさんして、神倉君の代わりにこっちを食べてください、ってお願いしてみる」
「……そっか。そういうことならさ」
 彼はごそごそと古びたナップザックを漁ると、茶封筒を取り出し、僕に渡してきた。
「え?」
 なんだろう、と思って中身を見ると、お金が入っている。千円札とか、一万円札とか。
「それ、今まで父さんが食費に、ってくれてた金のあまり。全部やるから、それ使って」
「え、でも、こんなには要らないよ。僕もお小遣いあるし」
 僕は返そうとしたけど、神倉くんは手をポケットに突っこんだまま動かない。
「いい。それはお前の金だろ。俺のために使う金なんだからさ」
「………」
 どうしよう、と思ったけれど、僕が逆の立場でもきっと神倉君と同じことを言っただろうから、僕はとりあえずそれを受け取ることにした。
「お釣り出たら返すね」
「いいよ別に」
 思いがけない大金を手にして僕は緊張したけれど、神倉くんは平然としている。
「……あのさ」
「なに?」
「お前が好きな漫画、……そうけつの……なんだっけ」
「あ……血契の双刃?」
「それ。最近どうなってんの」
 今まで、神倉君の方から漫画の話題をふられたことはなかった。なんでだろう、と思っていると、
「なんか、お前がそういう話してるの聞きたんだ。今まで学校で話してたみたいに」
 付け加えられた一言が、なんだか切実だった。
 それを聞いて、なんとなくわかってしまった。
 僕は上手くいくことしか考えたくないし、考えられないけど、神倉くんはそうじゃないって。穏やかに、一段ずつ、死刑台への階段を登ってる。もうとっくに死んでるみたいな目で。
「………僕も神倉くんとおしゃべりしたい。でも、それは明日でもいい?」
 神倉くんに希望だけを与えられてない。無力感を隠して笑って、僕は元気な声で言った。
「今日、もう一か所行きたい場所があるんだ」
「どこ?」
「うん。図書館に行って調べたんだけど、あの山のあったあたり、昔は八堂村っていう地名だったらしいんだ。それで、八堂って書いてあった地図があって、昨日写真撮って来たんだけど」
 僕はスマホの写真を見せた。昨日、図書館で古地図を漁っていて見つかった写真だ。この辺りは畑が多かったけど、その中にぽつんと「八堂」と書いてある場所がある。
「……ほんとだ」
 頷いてくれながらも、神倉くんの目は懐疑的だ。「それがどうした?」って書いてあるみたい。
「儀式があるのは八月八日で、それも十六年ごとって決まってた。十六は八+八だし、何か関連があるのかもって。だから行ってみたくて、……ちょっと山を通り過ぎるけど、神倉君も行けるよね?」
「ん」
「もし、これで地名の由来に神様が出てきたら、それが、その、関係してくるのかも。山の神様だったら魚とかの方が珍しくてお供え物としていいかもしれないし、もし獣の神様だったらお肉の方がいいかもとか、準備するものの参考になるって思うんだ」
「わかった。じゃ、行こうぜ」
 神倉くんは躊躇なく自転車の方に向かう。
 僕もスマホで確認した地図を頭の中で思い浮かべながら、先導して走り出した。