それから、僕たちはよく話すようになった。教室内では浮いていたかもしれないけど、神倉くんがいてくれるだけで心強さが段違いだ。
今までの僕にとって、教室は戦場でしかなかった。常に正解を求められているような脅迫的な空間。でも、今は違う。一緒に過ごす友達がいるんだ。
「あ、お、……おはよう、神倉くん」
「ん、日野、おはよ」
朝、教室にはいった時に挨拶をする相手がいる。圧迫感から解放された教室は随分清々しい。
肩の力が抜けたのが良かったのかもしれない。神倉くん以外の人間とも気軽に挨拶くらいは出来るようになった。
(ひとりじゃない、って、こんなにすてきなんだ)
目に見えない力が、いつでも自分の背中を押してくれるように思う。
昼休み、神倉くんの方から僕の隣に座り、黙ってパンを開けて食べだしたときは感激した。それまでは毎日、自分の方から「おひるごはん一緒に食べない?」と訊くのが習慣になっていたからだ。もしかしたら彼の方は迷惑に思っているかもしれないという不安が消えると、まだ弁当を食べていないのに胸がいっぱいになった。もしかしたら僕がそういう不安を感じ始めていたことに、神倉くんが気づいてくれたのかもしれないと思うと余計に。
臆病な僕は色々余計なことを考えて、「〇〇かもしれないから、やらない」という逃げ道を直ぐ見つけようとしてしまう。でも、神倉くんは逆だった。周りをよく観察して、黙って行動に移す。僕の考えてることを先回りされているみたいな気がして、「どうしてわかるの」って聞いてみたら、「グーゼンだよ」って言って笑うんだ。言葉より行動で語る、ってかんじで、彼はまるで小さな黒いライオンだ。孤高にもなれるけど、群れる優しさも持っている。
優しいライオンの昼食はいつもコンビニで買って来たパンだった。焼きそばパンか、コロッケパンか。どちらか一つだけ。三口くらいでぺろりと平らげてしまう。
「それで足りるの?」
恐る恐る尋ねてみると、彼は
「こんなもんだろ」
と言った。神倉くんは絶対に僕を無視したりしない。返事はだいたいそっけないくても、そこには誰も傷つけない、確かな優しさがあった。
僕も身長の割には食べない方だからとりあえず納得する。制服の袖口からのぞく彼の手首はぞっとするほど細く見えて、だからこそもう少し食べた方がいいんじゃないか、って思うんだけど。
「野菜食べろって言われない?」
としつこめに尋ねてみると、
「どうせもうすぐ死ぬんだから、何食ったっていいだろ」
そうぶっきらぼうに返される。
(あ、まだその設定生きているんだ)
と僕は思った。



