八月八日に死ぬ君へ


 八月八日の一晩を外で過ごすために、僕は雑なアリバイ工作をしていた。ハマってるゲームの限定イベントがあるから東京に行く、ネカフェに泊る、というでたらめの走り書きをリビングに残しておいたのだ。帰宅した時、母さんは怒り狂っていたけどそれは想定内だ。
「あんたね、そういう予定があるなら先に言いなさいよ」
「……ごめんなさい」
 僕と母さんの間に入って、味方になってくれたのは義父さんだった。
「まあまあ……もう高校生だから、大丈夫だって思ったんだよな。でも、世の中的には高校生はまだ子供だし、……僕たちも本当に心配したんだ。今度からはちゃんと言ってくれ。そんなに行きたいイベントなら、僕が一緒に行くよ」
「……うん。ありがとうございます……」
 しおらしく謝っておく。一応、アリバイ工作にSNSで適当なイベントの写真を何枚か落としておいたけれど求められなかったのは安心した。
 しょぼくれながら部屋に戻る後ろ姿を見せつけたから、昼過ぎ、予想通りに義父さんが僕の部屋を訪ねて来た。
「……大丈夫? 元気ないんじゃないか」
「……ネカフェに泊まるって疲れるね。全然足伸ばせなくて」
 僕は苦笑いしてみせた。
 疲れた顔の理由にはなった。義父さんはその後も、自分や母さんがどんなに僕を心配したか、という話をして、僕は神妙な顔をして聞いていた。
 話すことがあらかた尽きた後、僕はゆっくりと尋ねた。
「……義父さん。義父さんは、……僕が、……本当に……お休みの日に一緒に出掛けようって言っても来てくれるの?」
「もちろん」
 人の良い彼は、直ぐに頷いた。僕が遠慮を装って内気を演出し、ほのめかしたちょっとした友好の仕草に彼が反応し、喜んでいるのがわかる。
「誠司くんはゲームが好きなんだよな。僕はあまりゲームは詳しくないけど、もっとやっておけばよかったなあ」
「………」
 彼の視線が僕の部屋を巡る。小学校入学の時に買ってもらった学習机にゲーム用のパソコンがおかれていること以外は特に特徴のない部屋だ。
「あの……父さん。今日、お祭りでしょ。準備行かなくていいの」
「うん……そろそろ行かなきゃな。誠司くんは友達とくるのか?」
「友達、ちょっと家族の用事が出来ちゃったみたいで」
「そっか……残念だったな」
「うん」
 僕は頷いてから言った。今思いついた、というような感じで。
「あのさ、……町内会の名簿、手書きって言ってたよね」
「? ……うん」
「僕がパソコンで打ち込んでさ、印刷してあげても……いいけど……」
 僕は徐々に声を萎ませた。
 言っている間に自信がなくなっていった、ちょうどそんな風に聞こえるように。
「……い、いらないよね。ごめん、なんか……義父さんの役に立てるかもなんて思っちゃって……」
「いや……嬉しいよ」
 あまりうちとけられなかった義理の息子が差し出した片手を、この人なら拒めないだろうとわかっていた。
「じゃあ、お願いしようかな。でも件数があるから、無理しなくていいからね」
「うん」
 僕と義父さんはリビングに戻った。町内会の資料の中から取り出された名簿を預かる。その後、祭りの準備があるからといって出て行った義父さんを見送って、僕は部屋に戻った。
 名簿の中には、ちゃんと書いてあった。
 長老会の人たちの、住所と名前が。