八月八日に死ぬ君へ


 おばあさんの話は興味深かった。
(……やっぱり山の神様なんだ)
 僕は至極熱心に聞いていたからとても感心されてしまい、気に入られて、お茶やお茶菓子だけじゃなくて「夕飯も食べて行きなよ、カレー作るからさ」とまで誘われてしまった。
 それをなんとか断って家を出る。
 また今度母さんに会いに来てください、なんて慣れない愛想と引きかえになんとか神倉君と二人きりになったとき、僕から大きなため息が漏れた。
「はーっ。話、ながかったね……」
「お前、すごかったな」
「え、え?」
 でもわかったことも多かったよね、と続けたかったのに、神倉くんの呟きの方が聞き逃せない。
「な、なにが?」
「知らない人にあんな風に話しかけてさ」
「え、え、そう? 変じゃなかったかな、あの、でも……」
 確かに、今までの僕じゃ絶対にできなかったと思う。
 そもそも嘘をついたりとかもあんまり得意じゃなかったし。
(……帰ったら、母さんに辻褄合わせとかなきゃいけないしね。まあ、ゲームの影響でちょっと昔の地名が気になるようになってとかって言えば誤魔化せるかなあ)
「僕は覚えてなかったけど、母さんの友達、って言ってたから、完全に知らない人じゃなかったし」
「………」
「で、でも確かに……ちょっと頑張れたかも。聞かなきゃいけない、って思えたから……か、神倉くんのためならさ」
 恩着せがましい言い方になってしまったかも、と言った瞬間から後悔した。
 そうじゃなくて、君のおかげだ、って言いたかったんだけど。
「あ、あの……」
 言いよどむ僕を見て、神倉くんは勘違いをしたらしい。僕が「すごかった」っていう言葉を、嫌味だとか揶揄いだとかって思ってるのかもしれない、って。
「すごかったってのはさ、すごかったって意味だよ。ガチで」
 彼はもっと適切な言葉を見つけた、と思ったらしい。僕を見つめて、きっぱりと言った。
「変じゃなかった。かっこよかったよ」
「あ……。……。ありがとう」
 僕はなんとかその言葉を振り絞った。誠実な気持ちをしっかり受け止めて、無い裏を探らず、正しい言葉を返すのは難しい。でも、神倉くんとならそれができた。これが信頼って言うのかもしれない。
「……でもさ、今ので結構、色んなことが分かったと思うんだ」
「わかったって?」
「昔話は、多分、都合のいいところだけ残してるんだと思う。実際、八×二で十六回、生贄が必要なわけだし……だったら、あのお話の中で死んだ人間十六人全員が祟ったとか、そういうことじゃないかなあ? それで、神さまに祟りを無くしてもらうために、同じ数だけ生贄が必要だったとか……村人がお侍さんを含めた八人を呪って殺してしまったみたいなものだから、呪い返しにあったとか」
「呪い返し?」
「人を呪わば穴二つ、とかいうでしょ。呪いを受けたら、それをそのまま相手に返す、みたいな……悪いことをしたら反作用がある、呪った方もひどい目に合う、みたいな感じ」
「ふうん……」
「とにかく……、お供えをするなら、山の神さま向けでいいと思うんだよね。それならやっぱり、山の幸より海の幸の方が珍しくていいかも」
 ぐ、ぐう。
 勢いづいて話す僕のお腹が、盛大になった。
「………」
 聞こえてなければいい、って思ったんだけど、神倉くんが「腹空いたな」と同意してくれたので叶わぬ願いと知る。
「ご、ごめん」
「なんで。俺達昼めし食べてねえしな」
「そ、そうだよね。……」
 その時、幹線道路沿いに建っているファーストフード店の看板が目に入った。ドライブスルーもあるような大きな店舗だ。
「あ……じゃあ、ハンバーガーとかでいい?」
「………」
 返事がかえってこなかったので、僕は直ぐに取り消した。
「苦手なんだったら」
「いや、……フツーに食ったことないなって思っただけ」
「え、そうなの?」
「ん」
「じゃ、じゃあ食べようよ。美味しいよ。僕、フライドポテト好き」
 そこはハンバーガーじゃないのかよ、と言って、神倉くんは笑った。