アヤカシ太夫♂とイロオトコ

 


 二日程、後。

 春は桜が植えられていた植え込みに、この時期は紅葉が植えられている。
 新吉原の恒例だ。
 今年の初雪の名残が未だ落ちぬ紅葉に残り、白と紅の対比が鮮やかに彩る。

 吉原俄(よしわらにわか)の莫迦騒ぎも通り過ぎ、人疎らとなる時期。
 桔梗柄の羽織を靡かせた源三郎が、黒町屋の玄関に立つ。
 其の姿を目聡く見つけた二階出窓のし乃雪太夫、ぱぁと笑顔を咲かせ。


「おお、源の字!」
「よぉ、もう体は良いのかい?」
「この通りじゃ、何とも無いわえ」
「そうか……
 外郎(ういろう)が売っておったぞ、食おうぜ」

 笑えば、し乃雪の笑みが更に灯った。


 何時もの部屋。
 何時もの茶。
 何時もの、友人。

 華やかな振袖姿のし乃雪、今日は何処かへほっつき歩いていたらしい。
 花魁の姿ならぬ時は"着替えが間に合わぬ時"であると、源三郎は知っている。

「何処へ行っておったんだ?」

 外郎の包みを開けながら問えば、

「ん?…… いけず」

 有耶無耶に返され、「何だよ、」と笑い返した。
 …… 察しは付く。


「整理は、着いたか?」
「…… 否、」
「だよな」
「ふふ、」

「……あのな、源三郎」

 改めて、呼ばれ。
 振り向けば、窓際で吉原錦を纏った美しき天人の、寂しそうな微笑み。

「お前さんがおってくれて、良かったよ」

 取り分けた外郎を差し出しながら、源三郎は目を逸らした。
 上気する顔を隠す為もあるが……。

 否、
 し乃雪は、"し乃雪"だ。

「おう、」

 照れ笑いもそこそこに、源三郎は彼を……"し乃雪"を、再び真っ直ぐに見遣った。