アヤカシ太夫♂とイロオトコ

 


 生温い風が、さらり、さらさら、ざあざあ。
 木々の葉を楽しそうに揺らす。

 きらきらと輝く空。
 其れを遮る青葉闇。
 ちらり、揺れて漏れた光が、其処で見上げ続ける鴉獄の金の眼を覗き見、跳ねた。

 黒装束を身に纏う其の姿。
 ……隠しきれぬ胸から、白い包帯が見え隠れしている。
 其れの下よりじわりと滲みている赤いものを、鴉獄はしかし気にする様子も無い。

 一羽の烏が、遠い空の上より真っ逆さまに落ちた。
 力尽きた訳では無い。鴉獄目掛け、其の黒く軽い身はバサと大きく羽ばたき、其の腕へと留まる。

 片目が無い其れは、クゥ…と小さく鳴き、ちょい、と脚を片方、差し出した。
 ……其処に結び付けられている、白い紙。
 片手で器用に解き取った鴉獄は、烏の頭を撫でた後、紙を開く。

 流れる様な美しい文字が、其処に示されている。


『とうとう見付かった様子、重畳。
 持ち主、早良乱丸の監視をお願い申し候。
 "早良"の姓に引掛り有、調査求めます。』

「"早良"姓…… あの剣豪の子か?」

 暫し其の文面を見詰め、何かを思案し。
 其の紙は煙の様に空気に溶け、消えていった。

 白い煙は吹き舞う風と共に音も無く散り。
 其処に黒い羽根が数枚混ざった辺り、漆黒の忍の姿は跡形無く消え失せていた。


 舞い続ける風は、見て見ぬふり。
 素知らぬ顔で木々を抜け、去って行った。