「駁螺は、連れ去ったのであろう?今何をしておる、」
「かの者は……ウフフ……お知りになりとう御座いましょうか?」
「……死んだのかえ?」
「……いいえ?
もっと恐ろしき事で」
顔色一つ変えぬ問い返しが、恐ろしい。
「……良い目には遭っておらぬのであろう。もう良い」
これ以上訊けば後悔しそうな心持ちがした。
嗚呼、毎年の風景。
先程買った鳳凰の飴を口に含みながら見れば、夜と昼が混ざり合う其の景色は心地良く目前を流れ行く。
安堵に浸りながら、ふと、し乃雪は霞を見遣り。
「のお、霞よ」
「はい、」
「ひとつだけ、忠告せねばなるまいな」
「なんなりと」
「俺は人間の肩入れする気は無い。
しかしな……此処は人の世、罪無き人は殺めるものではない。
お前さん等がそうした様に、次は俺が斬らねばならぬやも知れん。
一度だけ申そう……俺は、人の子じゃ」
漆玉の如く純粋な黒の瞳が、瞼に隠れ。
ゆっくりと、長い睫毛を震わせながら、霞は頷く。
「……此度の事、ほんに申し訳無く思うております。
分かっておりました。しかし、大幌月宵主を止められなかったは、私の失態に御座います」
「否、分かっておるなら良い」
「大幌月宵主も、ようやっと頭が冷え、反省した様子に御座います。
今後は私も大幌月宵主を」
「否々、分かった分かった…済まぬ、其処まで追い詰めるつもりは……」
まるで逆の立場。
思い詰めた様に鬱ぎ込んで行く霞を、し乃雪が宥め。
……周囲の視線が痛い。嗚呼、あの時の源三郎はこう言う気持ちであったか……軽く後悔を感じた、其の時だ。
遠くより、祭り囃子。
見れば、先日と同じ様にガチガチと歯を鳴らしながらゆっくりと境内を練り歩く獅子舞の姿があった。
嗚呼、漸く来たかえ。思いながら見ておれば、案の定し乃雪を見付けた獅子は、先日に同じく彼等が居る灯籠へと近付いて来る。
「ほれ、霞よ。獅子舞が来たわえ」
「あら、ほんに」
「あれをな、今宵も友人が演じておる筈じゃ。お前さんを助くに協力してくれた御仁よ」
しかし、今宵は少々勝手が違った。
源三郎は獅子頭ではなく、尻の方であったらしい。唐草の布の横からひょいと顔を出し、
「よぉ雪!今日も此処で待っていてくれたのか、」
と満面の笑み。
「ああ、待ちくたびれたわえ……早く終わらせて縁日を回ろうぜ、」
「生憎今日はもう少し時間が掛かるが……待っていてくれるか?」
「何故に、」
「明日は最後の日だろう?獅子と神輿の奉納がな……"こいつ"と少々打ち合わせをせねばならん」
獅子頭を持ったまま待つ者を、源三郎は指差した。
「嗚呼、ついでに紹介しておこうか。
祭りじゃ何時もこいつと獅子をやるのさ。出て来いよ、」
言われ、其れはゆっくりと獅子の中から顔を出し。
背後に居る霞と瓜二つの顔を、し乃雪へと向けた。
紛れも無い……其の男は。
