* * * * * * * * * *
翌日、祭りは噂通り執り行われた。
先の雨にて怒り狂った神を沈める為、やはり祭りは必要。そう、神社の神主は決断したらしい。
源三郎が昨日早く遊廓を後にしたのは、どうやら祭りの打ち合わせや準備があった故。
今宵もまた源三郎が祭りに参加すると聞いたし乃雪は、先日以上に胸を踊らせ、一張羅に化粧を施し、夜の境内に繰り出した。
また幾人かに声を掛けられたが、今宵は見向きもせず、あの獅子舞を今か今かと待ちわびる。
其の顔はまさしく、恋をする少女の如く。
暮れ泥む光に横顔が浮かび、街行く人は皆彼に見惚れる始末だ。
しかし、其れより先。
し乃雪が待つ方とは少しばかり違う方向より、朗らかな女性の声が自分を呼んだ様な心持ちがした。
初めは気の所為であろうと無視していた彼。女の知り合いは遊廓の外には殆ど居ない故だ。しかし二度、三度、呼ばれ、ようやっと気付いて右方へ顔を向ける。
「……太夫、し乃雪太夫!
嗚呼、良かった」
白地に藤柄。余り見掛けぬ着物に身を包んだ、其の顔は……先日見たあの鵺神と同じ顔。
しかし、其の柔らかな女声にて"彼"では無い事を察し、瞬きの間だけ言葉に詰まった。
「…あ……お お前さん、もしかして」
「お会いしとう御座いました…!
先日は連れの者が大変お世話になりまして……」
少しばかり息を切らせ、ほんわりと柔らかな微笑みを浮かべた、人形の如き顔。
恐らく、
「あの……河童の木乃伊どんかえ?」
「ええ、左様に御座います。
申し遅れました、……私、霞……真名を山鹿澄澤主と申します」
地面に正座し三指付きそうになった所で、し乃雪は慌てて立ち上がり、其れを止めた。
神様に三指を付かせる訳にはいかぬ。彼女を立たせ、しかし其の着物は土埃一つ付かず綺麗なまま。
にこにこと微笑んだまま、霞と名乗った彼女は彼の隣に並び、まるで長年の友の如く、又ニコリ。
「先日は、大変有り難う御座いました。
お陰で大幌月宵主はあれ以上人を殺めずに済みまして御座います」
「おおぼ…何?」
「大幌月宵主は、私が山にて連れ去られて以来、血眼になり、元来の御役目を忘れてかの男を追い回しておりました。
ようやっとかの男を捕まえる事が出来、大幌月宵主も喜んでおります」
長ったらしい名前をすらすらと口にしながら、溢れる柔らかな感情をし乃雪に伝えて来る。
其の姿、顔は瓜二つなれど纏う雰囲気は全くの真逆であり、暮れた空に浮かぶ提灯の明かりも相まって、不可思議な違和感。
少し戸惑いつつ、しかしし乃雪は一番の疑問を恐る恐る口にした。
