アヤカシ太夫♂とイロオトコ

 
 
「見付けたぞ……見付けたぞ!!見つけたぞ!!!」
「……ヒィ!!!」

 駁螺は、引きつった様な声を出した。
 狩衣の其れは見る間に身を破り、鵺の姿となり、

 "ヒィィィーッ!!!ヒィィィーッ!!!"

 耳をつんざく鳴き声と共に、雷鳴が轟く。
 青白い光を其の身に纏い、其れは周囲をバチ、バチィと弾く。

 駁螺はまるで鼠の如く、総てを投げ捨て駈け出した。
 バシャバシャバシャ…跳ねる水の上を、しかし青白い稲妻は千鳥の如き音を立て弾け進み。

 "バチィィィッ"
「げハ……」

 駁螺の身を、吹き飛ばした。
 意識が白く飛び、視界が反転し、……

 小さな身は軽々と宙に浮き、白目を剥いてバシャンと地に突っ伏し。
 其れきり、動く事無く、沈黙した。


 "さあさあ、さらさら……"

 少し、雨の勢いが收まった心地。
 其れは何時しか五月雨の優しさと代わり、其処に佇む者達を優しく濡らす。

 鵺は、人の姿と戻っている。
 じっ、と、気を失った小さな男を見遣る眼は、哀れみを含む人の眼。

 し乃雪は、其の前に立つ。
 二体の異形が其の人を護らんとしたが、し乃雪が「案ずるなよ、」と優しく声掛け、二体は不安気に身を引いた。


「退け」

 白い狩衣の人が、心地良い男の声を紡ぐ。

「其の者を寄越せ」
「のぉ、お前さんは鵺の姿を借りた神様じゃの?」

 し乃雪が、微笑む。

「恐れぬのか、汝は?」
「似た様な者は多く見て来た故、今更…な。
 お前さんの邪魔をする気は毛頭無い、こやつは差しだそう」
「、」
「代わり、良ければ話だけ聞かせておくれ、聞きたい」

 し乃雪は、微笑んだ。
 柔らかな、しかし其処に駁螺に対する慈悲の色は無い。
 其れは、この先この男が如何なるかを薄ら知り得ている様で、しかし何たる感情も無い。

 狩衣の人は、すぅ……と右手を横へ。

 "カタ、カタカタ、ガタン"

 し乃雪と共に籠へ放り込まれて居たあの木箱が、操られる様に籠より零れ落ちた。
 箱がばらりと砕け、中より転がる河童の木乃伊。
 ……其れは流れる道の川にぽちゃんと落ち、じわり、水を吸い上げ。

 やがて、其れは白い着物を纏った女の姿となり、苦しげに身悶えた。
 其の顔、狩衣と瓜二つ。

「……汝、吉原遊廓の妖太夫か」

 狩衣が、唸る様に呟く。

「只の陰間、さ」

 言えば、人形の如き顔にフッと笑みが零れ。

「成程……左様か。
 妖住まう異界見る眼を持つ、"鬼子"と聞く。
 成程、噂に違わぬ…否、其れ以上の美しさ也」

 "鬼子"。
 其の言葉に、し乃雪の顔が曇る。